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贅沢なホラードラマ(レビュー:『SIX HACK』)

オススメ度:★★★★☆

《現代社会に求められること、それは「偉くなる」こと。偉くなるためのハックを、あなたにお伝えします。》

【検証】
 SIX HACKがなぜあのようなかたちになったのか
 インタビューと再現ドラマを通して、検証しご説明します

 最近、テレ東がアツい。『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』など、「一山いくらのありがちなバラエティ番組」風にコーディングしたホラー作品をなぜか作り続けているのである。本作、『SIX HACK』もその路線上にある。

 これらは一人の怪人物――大森時生氏――によりプロデュースされているのだが、よくもまあこんな、「想像する範囲では面白いだろうけど、現実に形にするのは難しいだろうな」といったものを実現してきたものだ。具体的にはよく社内会議を通したものだと感心させられる。まだ若手なのに随分な辣腕家なのだろう。

 さて、本作は構成をダ・ヴィンチ・恐山氏が担当し(オモコロライターとして有名な方で、私も以前にイベントに呼んで頂いたことがある)、構成協力がSF作家の樋口恭介氏となっている。『奥様ッソ』が家族紹介、『このテープ』が昭和時代のバラエティ番組紹介の体裁を取っていたように、本作はビジネスハックの体裁を取っている。

『奥様ッソ』は体裁を最後まで保ったまま恐怖を滲ませる作りだったが、『このテープ』は体裁を破壊させた。そして、本作は体裁を破壊させつつも、最後の「検証」でその破壊されつつある裏側をホラードラマとして提示するという作りとなっている。

 本作のいわば「本番」が4話目の「検証パート」にあるとすれば、これは考えてみれば贅沢な話である。本作はモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)に分類される作品であるが、リアリティを担保させる部分のドキュメンタリー要素、いわば前フリを「地上波で行う」という仕掛け自体が、ある種のリアリティの担保なのだから。

 この説明はややトートロジーに感じられるかもしれないので、少し言葉を重ねよう。例えば、初期のモキュメンタリー映画の傑作『ノロイ』では、架空の超能力特番が登場する。劇中では「実際にテレビで放映された超能力特番」という建付けになっているが、もちろん実在はしない。その超能力特番に出演した超能力少女の行方を探るのが『ノロイ』なのだが、ここでわれわれが超能力特番の存在にリアリティを感じるとしたら、それは「いかに地上波で流れたっぽく作り込まれているか」という点に依拠することになる。

 一方で、本作は「いかに地上波で流れたっぽく作り込まれているか」どころの話ではない。「実際に地上波で流れた」のだから。そこで演出されたリアリティをベースに、われわれは検証のホラードラマパートを楽しむことができる。私がタイトルで「贅沢なホラードラマ」と書いた所以である。

 その検証ドラマパートのホラー描写も個人的には高く評価している。個人的には、と書いたのは、本作の「恐怖」をどう受け取るかはかなり個人差が出そうだからだ。というのは、私は本作の「恐怖」を、狂気に染まる渦中の人物ではなく、むしろ、

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