見出し画像

新システム導入時に人事担当者が絶対に忘れてはならないこと

百花繚乱のHRM

企業の基幹業務にITが本格的に普及し始めたのは1980年代前後と思われますが、人事領域では給与計算などで意外に早くから、ITは入り込んでいたようです。昨今では「人材アセスメント」や「ジョブマッチング」といった言葉が取り沙汰されるようになり、HRM(Human Resource Management)とも称されるこの分野でも、さまざまなサービスやソリューションを目にすることが多くなってきました。

何億円ものコストを投じ、いわばオーダーメイドでシステム構築ができるのは、従来であれば大企業の特権でしたが、今では情報システム部門がないような中小企業でも、低コストで気軽に導入できるようなシステムが数多く存在しています。

競争の激化ともあいまって、こうしたシステムは「専任担当者がいなくても手軽に導入可能」「マウスでクリックするだけのラクラク操作」「従業員の『見える化』がカンタン」といった謳い文句で宣伝され、検討用の資料もきわめて平易にわかりやすく作られていることから、深く検討されないまま、導入を決めてしまう経営者や人事担当者も少なくありません。

「何を見る」ためのものなのか?

しかし「これを使えば過去数年の履歴がたちどころにグラフ化され、部門・部署毎の比較も簡単、それをオンラインで共有しながら項目を切り替えたり、報告文書として出力したりすることもできます」と言われても、ピンと来ない、と言うより違和感を感じませんか?

この「できます」には「主語」と「目的語」がないからです。

わかりやすく言えば、いったい誰がそれをやるのか、どんなデータを扱うのか、ということが、ここからは皆目見当が付かないのです。

これらのシステムを提供するベンダーさんは、データ投入の支援はしてくれるかもしれませんが、投入すべきデータの面倒までは見てくれません。それはシステム導入を決めた側が決めることであり、データそのものの有無や、データの入力を誰がやるのか、ということについては、導入を決めた側でなければわからない訳ですから、むしろ当然です。

導入したはいいが、これといった効果が感じられない、利活用が進まないと感じたら、導入されるシステムはいわば「箱」でしかない、と考え直してみて下さい。システムとはデータを投入してこそ活きるものであり、投入すべきデータが特定することできていないのであれば、そもそもシステム導入など必要ないのでは?と疑ってみるべきです。

人事領域で扱われるべき「構造化データ」

それでは「投入すべきデータ」とはどんなものでしょうか?

小売業が売上や仕入を管理したり、スポーツチームが選手の戦績を管理したりするのであれば「投入すべきデータ」は容易に想像がつきます。それらの多くは「価格」や「勝ち数」などの「構造化データ」であり、タテ×ヨコで序列化が可能なので、善し悪しの判断がつきやすいからです。

しかし、人材アセスメントやタレントマネジメントではそうはいきません。

勤続年数や職位、有給消化率など、人事領域でも「構造化データ」はいくつか存在しますが、潜在能力や職務適性を判断できる材料は、ほとんど収容されていません。

多くの企業で採用されているS、A+、A、B+…といった段階的査定評価は一見、構造化データのように見えますが、これも市況や評価者といった、本人がコミットできない要因で確定してしまうデータであり、客観性に問題があります。

新製品を担当したA部門と、従来製品を担当したB部門で、A部門が劇的な成果を挙げると、多くの企業ではA部門により多くの「査定原資」が割り当てられます。B部門ではほとんど出すことのできないS評価やA+評価を、A部門では10も20も出せてしまうとしたら、このような評価情報を横並びで比較しても、タレント(才能)のマネジメントなどできるはずがありません。

しかし反対に、科学的な手法によって、所属員ひとりひとりのパーソナリティを「構造化データ」に変換し、かつ格納することができれば、こうしたシステムは極めて有効に機能する可能性があります。「彼は優秀だ」「彼は無口でコミュニケーション能力が低い」といった評価者の思い込みや偏見に左右されることなく、業績との相関や不活性化の予兆を可視化することができるかもしれません。

新しいシステムを導入してはみたものの、効果が実感できないとお感じになられたら「投入すべきデータ」の候補のひとつとして、こうしたものも検討してみては如何でしょうか。もちろん、順序としてはデータが先にあって、このデータをもっと簡単にレビューできるようにしたい!というニーズから、システム導入が決まる、というのが正しい順番ではあるのですが。