ルネ・ゴトー

高校で数学を教えています。数学の厳密性とルールのなかに広がる自由を楽しんでもらえたら、…

ルネ・ゴトー

高校で数学を教えています。数学の厳密性とルールのなかに広がる自由を楽しんでもらえたら、と思って授業してきました。また、生徒とは数学のほかに「読書」をめぐった交流もおこなってきました。note では「本読み」としての発信をしてみたいと考えています。

最近の記事

クジラを救いに行く ver.1 (1)

宮脇千枝との面談 宮脇千枝の家に行くには事務所のある御徒町から山手線の内回りで駒込駅まで行き、そこで地下鉄の南北線に乗り換えて四駅目の志茂で降りる。そこまで時間にして、およそ三十分足らずだ。 「北口から地上に出るとすぐ右手にローソンがあるから、そこを回り込むようにして、ひたすら荒川に向かって歩くの。そうねえ、あなたの足なら十分もかからないかしら。残念だけど、その道のりは心踊るような景色の中を歩いているというわけにはいかないわね。住宅やアパートがごみごみしていて、散らかした積

    • 高校生と読む外国文学 4

      アゴタ・クリストフ『怪物』 7月の第一週に行われた期末考査が終わると、それまで校舎内に張り詰めていた静電気を起こしそうなピリピリした空気が一気に解けて、生徒の表情にも穏やかな明るさが戻ってきた。 あと二週間もすれば夏休みだった。 それまで生徒たちはのどかな時間にどっぷりと浸かれるが、教師は試験の採点や一学期の成績つけなどの事務仕事に追われることになる。 おそらくそんな事情もあってなのか、夏休み前のこの二週間は全校をあげて九月に行われる演劇祭についての準備期間にあてられている

      • こびとに出会ったはなし

        どうしてこんな話をすることになったのかと言えば、そもそものはじまりは一ヶ月ほど前、郵便受けに投函されていた一枚の通知文だった。実を言えば僕自身、今に至るまでそんなことがあったことなどすっかり忘れていて、そのときになって、まるであらかじめ用意されていたかのようにすべてのことがいっきに思い出されたのだ。 そのチラシには九月十七日の土曜日の夜二十一時から翌朝の九時にかけてのおよそ半日の間、僕たちの住んでいるマンション全体が停電になると記されていた。マンションの電気系統の点検と補修の

        • 蟻をころす

          「そんな田舎に引っ込んじゃって、後悔してるんじゃない?」 麻美はいつもの調子で冷やかすように言った。スマホのスピーカーから聞こえる麻美の声はWi-Fiが不安定なせいなのか途中で何度か歪んだ。 「とんでもない。なんでもっと早くに引っ越さなかったのかって思ってるくらいよ」 わたしはテーブルのすぐ手前に置いたスマホに顔を寄せて言った。 テーブルの中央には、一晩水に浸けておいた栗が、山のようにうず高くザルに積まれてあった。わたしの両手はその栗の皮をむくために片時も休むことなくふさがっ

        クジラを救いに行く ver.1 (1)

          高校生と読む外国文学3

          ボリス・ヴィアン 『うたかたの日々』 3時限目がはじまって10分もしないうちに電話口に呼び出された。その時間は授業のない空きコマで、職員室に併設されている休憩室でドリップコーヒーを淹れて自分の机に戻ったところだった。 「保健室からだそうです」と言って、電話をとった二年一組の担任の坂田先生が受話器を手渡してくれた。 送話口を手で押さえながら「ありがとう」と言った後、「もしもし、電話かわりました」と話しかけた。 電話の向こうで、誰かが誰かに向かって話しているというよりは何かを叫

          高校生と読む外国文学3

          高校生と読む外国文学2

          イータロ・カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』(岩波文庫) 五月と十月の年に二回、全校生徒と職員に呼びかけて図書室主催の読書会が行われる。新学期が始まって二ヶ月が過ぎようという五月の末に行われる読書会は、新入生の歓迎会も兼ねている。 読書会は各学年にまたがった生徒と職員を混合して六人ほどのグループを作って行われる。各グループには、三年生の図書委員が進行役として加わる。 最初の十分間で、進行役から読書会を行う上での唯一のルールである「どんな意見であろうと否定してはいけない」とい

          高校生と読む外国文学2

          「高校生と読む外国文学」        投稿しました。 1回目は、レベッカ・ブラウン『体の贈り物』です。 よかったら読んでみてください!

          「高校生と読む外国文学」        投稿しました。 1回目は、レベッカ・ブラウン『体の贈り物』です。 よかったら読んでみてください!

          高校生と読む外国文学 1                   

          レベッカ・ブラウン『体の贈り物』 四月。 学校は新年度が始まって二週間が過ぎたところで、まだ,サイズの合わない服を着せられたような居心地の悪さに落ち着かない生徒も多い。きっと、それは何もかもが一斉に更新されるのではなく、ついこの間までは気にもとめなかった日常のある一部分だけを、それも自分で選びとったものではない何かを引き継ぎつつ、新たに始めなければならないからだろう。 わたしは春が苦手だった。 この季節に特有の大陸から漏斗状に垂れ下がった寒気団が日本列島に近づいたり離れたり

          高校生と読む外国文学 1                   

          中井久夫氏の訃報に接し、手元にある『樹をみつめて』を開く。 「戦争と平和についての観察」のなかに次の一行が。 戦争を知る者が引退するか世を去った時に次の戦争が始まる例が少なくない。 未来の人間のためにも、気を引き締めなければならない。

          中井久夫氏の訃報に接し、手元にある『樹をみつめて』を開く。 「戦争と平和についての観察」のなかに次の一行が。 戦争を知る者が引退するか世を去った時に次の戦争が始まる例が少なくない。 未来の人間のためにも、気を引き締めなければならない。

          いま気になっているのが安部公房。 初期作品から読み進めるか,代表作の『砂の女』あたりから行こうか? 大江によれば,これからカフカと安部の時代が来るだろうとのこと。 どうしよう?

          いま気になっているのが安部公房。 初期作品から読み進めるか,代表作の『砂の女』あたりから行こうか? 大江によれば,これからカフカと安部の時代が来るだろうとのこと。 どうしよう?