本棚整理

新しい本を手に入れれば、それは当然、床や机の上に投げ置かれたままであってはならず、どこかに収納しなければならないと思うのですが、しかし本が増えると限りある置き場所に困るものです。新たに本を並べようと思っても、分類にまず迷います。例えば、思想書、文芸書、歴史書などの内容での相違、あるいは新書であるか文庫本であるか単行本であるかなどの出版形式での相違、その他にも出版社や作家名での分類など考えれば考える程に分類の項目が増え、本棚の統一性を保つことが難しくなっていきます。それまで既知として私が抱いていた分類は突然に迷信のようになってしまうのでした。

一冊の新しい本が来たばかりに本棚が崩壊する───文芸書が思想書の相を帯びたり、ある系統の思想追究が実は別の文脈における発展に結びついたり、新しい本によって改められた私の感覚によって、それまで何らかの形で自分なりの分類や系譜を作り出したとしても、これとこれを同じ類にしておくのはどうなのだろうという思いが頭をもたげてきます。また思い出したように何年かぶりに再読した本への印象も変化して、ますます本の並べ方を変えたいと悩むようになってしまっています。

細分化された価値観をまとめあげようとする今の私には「就寝前に読む本」、「外出先で読む本」、「心が沈んだときに読む本」、「心に余裕があるときに読む本」など様々な分類があります。このような個人的な感覚による分類さえも川の流れのように緩やかに移り変わってしまうのですが、最早、私は知性ではなく感覚や気分でしか本を読めなくなってしまっているのではないかとさえ思えます。

そうして、これまで自分なりに本棚の整理を繰り返してきた私は普段の生活において、本が視界に入ってくるという、ただそれだけで思考が混乱するようになってしまいました。そのため私は本棚に遮蔽を施して、必要な時以外には自らの思考の外に追いやっておこうと考えるようになっています。あまり本について考え過ぎると、精神の平衡が失われてしまうのです。

現在、私の本棚は背丈が揃わなかったり、矛盾した内容の本が隣同士に並べられていたりと、よくわからなくなっています。私は本棚の整理を諦めることを引き換えに精神の安定を図っているのかも知れません。部屋の中に、本に限らず物が散乱している状態を許すのは不衛生な生活を招いてしまうという危惧から、とりあえず棚に押し込んでいるといった感じです。

それでも私の気持ちは落ち着かず、頭の片隅で複数の糸が絡み合っているような感じを覚えます。できることなら、それを解きほぐしたいのですが、自らの知性の限界もすでに突きつけられていることは間違いなく、このように自分自身に言い聞かせています。本来は整理のつかないものを暫定的にでも、まとめておくことが本来の意味での整理なのだと───そして、それしか今の私にはできないのだと───。