弁護士が「語る」には何件の事件処理が必要だろうか

弁護士の増員により、各種メディアにも弁護士の意見が載せられるようになった。

また、テレビ番組でも弁護士がコメンテーターとして出席することが多くなった。同じ法曹関係者として喜ばしいと思う。各メディアに出ている先生方は、限られた情報と時間の中で、できる限り誠実に、そして複雑なことをむやみに単純化することなく、それでいて普通の人に理解可能なように説明することに意を砕いておられる。素直に尊敬している。某元市長兼府知事は自由にお話になられますがあの方は政治家なので・・・。

しかし、法分野が多様であるように、弁護士が実務で(つまり仕事で)執り行う分野も多様である。
弁護士ドットコムを参考に一例を列挙するのであれば、事件の種類として
・離婚 男女問題
・借金
・相続
・インターネット
・消費者被害
・刑事事件
・労働
・債権回収
・不動産、建築
・国際・外国人問題
・医療
・企業法務
・税務訴訟
・行政事件
・民事紛争の解決手続(上記の分野でどのような手段を講じるかであり、法分野ではないと考えるが)
・民事その他(保険、年金、成年後見、いじめ、生活保護など)
が挙げられている。

私で言うと、
・インターネット
・労働
・外国人問題(在日韓国人の方の事件は何件かやったが強いとは言えない)
・税務訴訟
・行政事件
の経験も10件に満たないだろう。労働はほかに得意な人が多いのでそっちに行っちゃうのである。

逆に言えば10年も弁護士をやっていればそのほかの上記分野はある程度対応可能だともいえる。クオリティは勿論日本一とも大阪一とも言えないが、ある程度時間をかけりゃあ頑張れるといったところである。というか私は結構ほかの先生に相談して大ミスをしないかを確認する。たまに大ミスがあり、慌てて修正するというのはここだけの秘密である。

特殊分野で民暴分野などもあるが、あれは胆力と度量の問題である気がする。大阪の民暴専門の弁護士の先生方と大阪府警暴力団対策課の警察官の方々は暴力団より怖い。

まあそんなことはさておき、弁護士として一つの事件を解決することと、多くの方に事件の傾向を「語る」ことには、必要な知識経験量が非常に異なる。少なくとも私はそう考えている。

弁護士として一つの事件を解決することとは、その事件のたびに最新の知識を入れて、判例を調べて、あとは馬力で何とかなる。というか何とかする。

しかし、多くの方にある分野の事件の傾向を「語る」ためには、事件の経験を沢山蓄積させて、分野としての概要を知る必要がある。

法律や判例はどんどん更新される。だから、「語る」には現役でバリバリ頑張っていることが必要になるだろう。

一人の弁護士が担当している事件数は、通常の労働時間の人間では大体同時進行40件くらいだろうと思われる。交通事故特化の事務所では120件だとか150件だとか聞くが、それは分野を絞っているから可能なことである。離婚事件(特に調停)を20件も同時に受ければ、確実にパンクするので、それば法分野によって違うだろうなとも思う。

そして、当該分野に強いかどうかは同業者ではわからないところも多い。
口コミ投稿サイトでは「タナ―法」(ポルノに出ている女性の年齢を推察する科学的?手法。これ自体批判も多いが)を法律の名前と思って回答するひとがいた。明らかに「間違っているよね?」という記事もよく目にする。特に、名前だけ有名で現在の実務経験が乏しい方はその傾向が顕著である。みんな勉強しているのか?

また、職業差別ではないが、ネットに記事を書く行政書士の方が明らかに「なんぞこれ?」な回答をされていることもよく目にする(同業のちゃんとした行政書士の先生方に失礼なので、そういうことはやめてほしいと切に願う)。許認可については本業なのでお詳しい方が多いのでディスではない。変な人はどの業種にもおられる。

法律は公開されている。法律の専門書もお金を出せば手に入る。しかし、法律実務の最新情報を知るには、継続した努力と経験が必要であるのに、それは外部からは分かりにくいなあと思う。

私は、(自分で言うのもなんであるが)、話しやすいことと、事案の概要をまとめる能力だけは高い。そのほかはゴミカスである。なんとか頑張っているというのが正直なところである。
最初の入り口としてお話を聞いて、各事件に適切な先生を紹介することが非常に多いが、それもまた意味があることだと思うようにしている。

個別の事件も頑張るが、専門性というものをつけたいなあと思う。そんなことを思った夜である。

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