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年の始めの和

 明けましておめでとうございます。新年もよろしくお願い申し上げます。
 つい一週間程前には、クリスマスで盛り上がっていた人も、一年の始まりは、やはり日本のもの、昔から伝わる風習を準備して過ごしているのではないでしょうか。お正月飾り、鏡餅、お節料理、お雑煮…などなど。羽子板で羽根つきは、見かけなくなりましたが、凧揚げはされるお子さんもいるかな。

この時期は、聴こえてくる音楽も、尺八とお琴による”春の海”。
普段、尺八やお琴を聴かない方でも、耳にすると「あぁ日本だな」とか思うかもしれないですね。
私も、お正月時期の演奏の仕事で演奏することもありますが、のどかで、のびのびした感じがあり、好きな曲でもあります。

以前に通っていた幼稚園の頃のことを書きましたが、様々なカリキュラムがある幼稚園でした。例えば、茶道。子供向けに簡略したものだったかもしれませんが、お点前をするだけでなく、茶筅でぐるぐるとかき混ぜたり(笑…本人はシャカシャカ一人前にやっているつもり)、淹れたお茶を運ぶなど、ちゃんと毎回役割分担があり、豆茶人⁈でした。卒園時には、アナタはお茶のお稽古を一年間頑張りましたよ、という”おしるし”を卒園証書と別に頂いた記憶があります。

また、日本舞踊もあり、どのぐらいの頻度でお稽古があったかは記憶にないのですが、年に一度のおひな祭り会(学芸会みたいなもの)で踊ったので、きっと一年間はしっかりお稽古があったのではないかと思います。お化粧したり鬘をつけたり、という本格的な恰好ではありませんでしたが、自前の着物を着て、和傘を持ってポーズを決めている五人の写真が、アルバムにありました。
日本舞踊ではっきり覚えているのは、とあるお稽古日に、五歩歩くところを六歩歩いて「そこは五歩!」と、お師匠さんにはっきり怒られたことだけです。。。

で、そこで伝統芸能に目覚めたかというと、それはなく、ただお抹茶が好きな子供、というだけでした。音楽も舞台も洋物の世界に魅せられていました。
そういう中で、高校生の頃、学校の鑑賞会で、人形浄瑠璃 文楽を観たことがありました。音楽科も普通科も全員、大阪の国立文楽劇場に行きました。

大変失礼な話ですが、内容はあまりよく覚えておらず、舞台が始まってしばらく経つと、次第に気が遠のき(苦笑)、次に目が覚めたのは、「たきやん、見て!今人形が灯り点けたで!」と隣の席のピアノ科の友人が揺さぶった時でした。…ホント申し訳ない。友人は、「なんで見てないの~」とがっかりしていましたが、実は、私みたいな人、結構な人数いたような気配でした。

そんな私でしたが、大学に入学してから、再び文楽を観る機会に恵まれました。同級生のお父様より招待券を頂き、鑑賞教室の内容ではなく、通常の4時間ある公演を観ることになりました。…寝てたわりには行くのか?と思われるかもしれませんが、舞台芸術全般は興味あるので、もう一度ちゃんと観たいな、というのもありました。

前回観てから1、2年ぐらいしか経っていないと思うのですが、全く印象が変わりました。
”かっこいい…。”
これが正直な感想でした。
舞台と言えば、ミュージカルかオペラが真っ先に浮かぶ生活の中で、芝居が、語りの太夫と三味線の二人でで進行していくのは新鮮でした。お囃子は別にあるけれど、主に音を発しているのは、この二人だけ、というシンプルな演奏スタイルは、衝撃的でもありました。

特に、太棹の三味線は、これまでに聴いたことがある三味線の印象を、ガラリと変えました。
それまで、歌舞伎などで耳にする三味線は、今一つ私の耳には、何だかピンとこない感じでした。ところが、義太夫の太棹三味線の音は、深く、場面ごとに様々な状況を奏でたり、時には、登場人物の心情を語る太夫以上に、音が語っているのです。
このことがきっかけで、それまでピンとこなかった三味線全般、長唄や地歌の三味線の素晴らしさもわかるようになり、好きになりました。

その後も時折チケットを頂いて、文楽劇場へ出かけましたが、しばらくは、ビジュアルより音楽、でした。無意識に太夫と三味線が座る床(※1)を見つめていて、ふと気づくと、人形が何をしているか見逃している、というあり様。
ちなみに、義太夫の語りは、江戸時代の上方の言葉で書かれているので、一言一句はわからないのですが、あらすじだけ読んでおいて、後は、時折、プログラムに付いている床本(※2)をチラッと見て、劇場の雰囲気に身を任せる、という感じで観劇していました。

私にチケットをくれた友人が、「文楽どうやった?」と聞いたので、「面白かった!」と答えていたせいか、大学を卒業してすぐの夏に、劇場のアルバイトがあるよ、と紹介してくれました。もちろん、喜んで行くことにしました。
その時のお話は、また次回に。

…続く

※1)国立文楽劇場では、文楽公演の際、舞台の上手近く(客席から見て前方右手側)に”出語り床”という、太夫と三味線が座る場所があります。演目や場面により二人だったり、数人だったりということがあります。
※2)芝居の語りが一言一句全て書いてあります。太夫の方が使っている物が本当の床本(語る内容と語り方が筆で書かれている)です。



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