魔のえびせん試食コーナーに行った日
えびせんべいには、故郷がある。
えびせんべいには、古里がある。
どうも。
私たち家族が訪れたのは、そんな彼らの故郷である。知多半島の牧歌的な風景の中に佇む「えびせんべいの里」。そこは日夜、えびせんが大量に生産されつづける工場という側面と直売所としての側面の両方を持っている。
と、あたりのさわりのない説明をしたところでこの施設の魅力は何も伝わらない。
したがって、わたしがしなければならないことは、「魔のえびせんの試食コーナー」について語らうことであろう。
まず、この施設には上記の42種のえびせんが販売されている。したがって、自分とえびせんとの相性をこの極めて短時間のなかで見極める必要がある。お財布は有限だ。仕事をしていない亭主に金はない。有限の時間と有限のカネから、最適なえびせんを選択すること。
それがこの施設を訪れた者に求められる「能力(チカラ)」であり、私たちがこの施設を極限まで楽しむ一番の近道であることは、もはやあえて強調するまでもない。
この施設は、試食コーナーと販売コーナーが完全に分かれている。ここがミソである。
試食コーナーで試食をして美味い!と思ったえびせんべいを販売コーナーに戻って購入する、というのが大まかな流れだ。
至極単純である。
試食コーナーの入り口に突撃する。武器は
小さなトング(パン屋のそれの1/3)
紙ナプキン(ファミレスの机とかにあるやつ)
以上、このあと、つづらおりに42種のえびせんが並んでおり、一個ずつドラクエの宝箱のように透明なアクリルのハコを開けてトングでえびせんをつまみ紙ナプキンに乗っける、というお遍路巡りみたいなことをやるわけである。
ここまでは、いい。別に。ただ一つ。私たちを困らせたのが、えびせんをとった瞬間試食することができないという点である。
ここは、わたしも実際にこのシステムでハマった点だ。基本的にえびせんを取る所は一方通行のつづらおりの通路になっており、そこで立ち止まったり、えびせんを食べることは叶わない。流れる。川の流れのように、私たちは器用にえびせんを回収しながら、流れる。
その最後の行き着いたヘヴン(天国)が、実食コーナーになっており、そこに到達して初めてえびせんを口にすることが叶う。わけで。
嗚呼、とベンチに腰掛け私はここで一句詠む羽目になる。
桜の花びらのような色味のある綺麗なまーるい煎餅が手元に無数にあるのだが、それぞれが42種類のどれに対応しているか、分からない。
わからない。ああわからない。
集合と写像、その失敗がここにはあった。それでもいい天気だ。
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