日詩20240426『母の妄想』

木曜の夕方
母を見舞った
今日は病院へ連絡せずに向かった
間に合う筈が制限の6時を少し回った
夜間出入口の門番は少し文句を言いかけたが
急にイヤいいですと言い通してくれた
エレベータで3階へ上がる
ナースステーションで来訪者の短冊に
鉛筆で母と自分の名前を書いた
母の電動ベッドを動かし頭をあげて
挨拶すると母は驚き喜んだ
わたしあなたが死んじゃったと思ったのよ
 誰がそんなこと言ったの と私
知らないけど池に落ちたとか何とか
わたしこれで一人になっちゃったと思った
でも○○○(妻の名)さんが来て
そのあとは適当にやってくれるって
自分の脳がつくる妄想と
現実の区別がつかない
その区別がつかない妄想の世界を
全部現実だと思って
その中で真実と自身の生き残りを求めて
行動する母
行動自体もまた妄想だが
彼女には現実以上に現実である
そうした母の妄想が彼女の現実であることを
受け止めようとして出来ずにゆれる私
15分を過ぎたので挨拶をして去る
おやすみなさいと手を微かに振る母を残して
病院を去る
夜間出入口のせまい詰所で警手が
大きなカップやきそばを作っていた

2024/4/18 大村浩一

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