見出し画像

仲間に与え続けたらこうなった

 この業界で34年以上仕事をしているのは、長いほうだと思います。でも、僕は文章がスバ抜けてうまいとか、才能があったわけではありません。いつも締め切りに間に合わなくなり、だいたい自分では65点レベルでも原稿を送っていました。

 今でも「こんな内容で大丈夫なのか?」と、常に疑問を持ちながら仕事をしています。「よく書けたな」と自分で80点くらいを与えられる原稿は年に1本あるかないか。

 では、なぜ失業しなかったのかと言えば、誰かに何かを与え続けたからでしょう。自営業はおそらくみんなそうですが、依頼を断ると2度と仕事が来ないんじゃないかという恐怖から、無理して受けてしまいます。それで徹夜ばかりして、倒れてしまった仲間もいました。

 僕の場合は「今回は難しいけど、僕の代わりにすごく優秀なライターがいます」と、自分よりできる男を紹介していました。仕事を奪われる恐怖から、仲間を紹介するケースは少ないと聞きます。

 彼らに仕事を紹介し続けていたら、信じられないことが起きました。5人の後輩が中途入社でそれぞれ別の出版社に採用され、数年後に僕に仕事を与える立場になったんです。

「苦しかったときに、仕事を紹介していただいた恩は忘れません。連載が欲しいときはいつでも言ってください」

 こんなに嬉しい言葉を数人からいただくことになりました。彼らは優秀なので、どんどん頭角を現し、取締役まで出世した友人もいます。また、編集者にならなくてもやがてベテランライターになり、「他社でボツになったけど、使えそうな企画を送ります」と言われ、それを出したら特ダネ扱いで採用されたことが何度もありました。

 彼らの支援がなかったら、とっくに失業していたでしょう。見返りを期待せずに相手に何かをした場合、8割くらいの人からお返しがあり、親切にされました。恩を返したいというのは人間の本能かもしれません。

 常にギラギラしていて貪欲、時には人を裏切るライターはなぜか10年くらいで消えました。結局、無欲が一番生きやすくてうまくいくんじゃないかと感じています。

 
 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?