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コールセンター物語③ 江藤の相槌

こちらの話と合わせてどうぞ

今日は水曜日か。中野さん休みの日だな。
あの人って9時出勤のはずなんだけど、いつもちょうど9時1分にくるんだよな。それも正確に1分遅れ。ある意味すげーな。
あ、てことは中野さん休みだから休憩室の掃除か。人員削減だかなんだかで総務のバイトを削ったから、中野さんが休みのときは知らんけど、僕が休憩室の掃除をする羽目になった。大方あの川上さんあたりが「ああ、うちがやりますんで」とか調子のいいこと言ったんだろうな。ったく、自分はやらないくせに隠れイエスマンなんだよな、川上さんって。
さて、しかたない、行ってくるか。すみませ〜ん、中野さん今日休みなんで、休憩室の掃除に行ってきます〜。

おっと。誰かいる。うちのコールセンターは、みんな同じ時間帯での勤務じゃないんだよね。かなり自由。フルタイムの人はほとんどいなくて、みんな9時から15時とかフルタイムだけど週4とか。扶養の範囲で働いている人も割といる。逆に学生とかはガッツリ入ってたりするけど、まあ自由な職場だよね。で、あそこに座っているのは、「私、仕事できるんだけど、扶養の範囲で働いているのよね」という岩本さんではないか。やべ。あの人の話長いんだよな。しかもいつも同じ話だし。あーこっち見てる?いや笑いかけてる?他に人?いないか。僕にか。知らん顔しようと思ったのに気づかれちゃったよ。会釈でもしておくか。

あ、そうか、この人は10時出勤だったな。でもバタバタしたくないから30分くらい余裕持って出勤してるって、自己紹介がわりに毎回聞かされてる気がする。いや気のせいじゃないな。毎回言ってるぞ。
10時から16時か。6時間で週3〜4。これも毎回聞かされる。なぜ毎回言う。「それ前も聞きました」って言ってもいいのだろうか。いやこの人のことだ「あらヤダ〜もう!ごめんなさいね〜」とかなんとか言うものの、その次も絶対に「10時から16時、週3〜4」を説明するだろう。賭けてもいい。絶対に賭けにならない賭けだけど。

おはようございます〜。ゆっくりなんですね。ああ、10時出勤でしたね。いえいえサボってないですよ〜。あはは。ここの掃除をすることになっているんですよ。いや、総務の人が休みのときだけやることになっていて。

(ほら、始まった。出勤の時間帯、週3〜4、扶養範囲で働く。やっぱり賭けにならなかったなー。でも今回は”休憩45分”が入ってるな。聞いてないっつーの。あ、旦那は働かなくていい、って今回も言ってる。働かなくても私の稼ぎだけで十分やっていけるだろう、って旦那さんは言いたいのか?いや違うな。別に私が働かなくても問題ないんだけどね〜っていう方が正しいな。生活に困ってないアピールだろうか。僕は困りまくりだけど。ってこんなことで劣等感持っちゃいかん。旦那、「働かなくてもいいだろ」じゃなくて「働かないほうがいいだろう、世の中のためにも」って言い換えてほしい。でも岩本さんは気づかないだろうなぁ。

そういえば彼女、自分とこのチーフSVに対しての不満もすごいけど、今日はその話しないんだな。自分は誰よりも働いている時間数は少ないのに、成績は一番いいってチーフの前田さんに言われるのに、前田さんは全然時給あげてくれないのよ!って会うたびに怒ってるんだけど、今日は言わないなぁ。
時給上がったのか?てか、前田さんにそんな権限ないだろ。いやこの前の契約更改っぽいときもプリプリしてたからそれは違うか。あ、話題変わった。竹山さんの話?)

ああ、竹山さんですか、そうらしいですね。はい、彼女の社内報、今までとは違ってすごくいいもの作っていますよね。見てないんですか。え、でもあれは業務内容に関わるものだから業務中に見ても大丈夫ですよ。むしろ昼休みとかに見ないでくださいよ〜はは
(そんな時間もないって、時間の使い方変だし。そりゃあ電話出るのが仕事だけどさ、岩本さん通話時間長すぎるから。お客さんの思い出せない歌を一緒に考えて一緒に歌うとかやめてよ。ZARDの歌がどれも似たような曲だとか、そんなのどうでもいいから、ってモニタリングしたとき思ったよ。)

そうなんですか。辞めたいなんて思ってたんですか〜
(知ってよ、岩本さんいつも言ってるじゃん、辞めたいって。で、歳のせいで仕事ないとも。いや〜仕事がないのって年齢のせいだけじゃないって思うけどなぁ。あ、「私いくつか言ったっけ」でた!これも必ず入ってくるワード。で、
「実は私、57歳なんだけどね」って言った後、必ず
「どうだ、意外だろう!」ってな感じの顔するんだよね〜
いや、見たまんまですけど。でもね「そうなんですか!見えませんね!」って言ってもらいたいんだよね。だって顔に書いてあるもん。
「57歳には見えないって言え!」って。

そしてそのまま「働かなくてもいいんだけどね〜」と同じ話へと続く、
謎の扶養自慢。

じゃ、働くなよ(ここでは)。


あれ、岩本さん、なんか少し元気なくなった?
竹山さんも南畑さんも次の就職先を見つけるのが厳しいと思ってたのに、
そうでもないってわかって悔しいとか。心狭いなぁ、岩本さん。)

あ、いってらっしゃい。
なんか気に入らない状況になるとその場を去る岩本さん、
今日もそういうとこだけはブレてないわ。そして今日も長かった。
しかしまた2〜3日したら同じ話を僕は聞くことになるんだろうな。
岩本さん、絶対にここ、辞めないだろうな。
たとえ時給上がらなくても。きっとあんなんじゃずっと上がらないぞ。
つまり岩本三千子のおしゃべりは永遠に延々と続くのだ。

三千子、ファイト。
さて掃除掃除。

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