コールセンター物語⑤カスタマーセンターの守山さん
「お電話ありがとうございます。ウィッシュジャパン、担当守山でございます」滑らかにオープニングトークを口にする。
「あ〜もしもし、こんにちは〜」
お、これは長くなる、間違いない。
私は化粧品を扱っている外資系会社のカスタマーセンターで働いている。
もう7年になるからベテランっていう域かもしれない。
けど、新商品はすぐ入ってくるし、外資特有なのか上層部がコロコロ変わるし、そのたびやり方が変わる。だから年数は長くても覚えることが多すぎて、結構しんどい。7年前はまだ30代後半だったのに、7年経つと40代後半になるんだからいやになる。いろいろと。
「お客様、本日はいかがなさいましたか」
「ああ〜今日いい天気だったからね、窓を開けたのよ」
「・・・」
なんだ、この展開。この人の用件はなんだろうか。
「そしたらさ、あなた、いきなりくしゅんくしゅんってあくび、じゃなくてくしゃみが出ちゃったのよ、2回も!」
あくびとくしゃみ間違えるな。くしゅんくしゅんってあくびないだろ。
「お風邪ですか」
いかん!質問はしちゃいかんのだ。答えられない質問をしてくる可能性あるし、変に広がっちゃうこともあるから、オペレーターは聞かれたこと以外、口にしちゃいけない。
「ううん、風邪じゃないのよ」
セーフ!
じゃあなんなんだ。
「最初ね、花粉症かと思ったんだけど、今はほら、花粉の時期じゃないじゃない〜花粉っていうのは、ほら春でしょ。もう秋だしねぇ。でも秋っていってもなんか毎日暑いわよねぇ。もう11月だっていうのにねぇ」
花粉は春だけじゃないし、秋もあるし、てか一年中だし。一般的には花粉=春、てなイメージだから許すとして、暑さの話でもないだろうよ。
「この間、ちょっと寒くなり始めたじゃない?だから衣替えしちゃったのよ。だからなんかもうもう着る物なくてね〜、イヤになっちゃうわ」
こっちのセリフだ!
よし、咳払いをしてみよう。気づくかもしれない
「ごほっ」
「あら?風邪?声を使うお仕事なんだから体調管理しっかりしないといけないわよ、やっぱり大事な商売道具なんだから気を使わないと」
叱られました。
「お客様、本日はいかがなさいましたか」
「だから今話してるじゃない」
(いかがなさいましたか)ああ、そうか。”どうしたの”って聞いちゃったから”こうなのよ”って話してくれているのか!
絶対に違う。早く本題に入れ。
「だから、朝窓を開けたらくしゃみしちゃって、花粉症かなって思ったんだけど、もう秋だから、違うじゃない?だからアレルギーかと思ったのよ」
ああ、なんか本題からどんどん遠ざかっているような気がする。
アレルギーとか言われても、うちは化粧品や雑貨の会社だし、そういうの
薬機法が関わってくるからコンプラ的にも説明できない。ちなみに薬機法って、”医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律”の略なのよね。長い。どうでもいいけど。
「アレルギーですか?」
あ、やばい!また質問をしてしまった!
「そうじゃなくてね、
あなた、人の話は最後まで聞きなさいよ」
むかつく。
フツーにむかつく。
「失礼いたしました。お続けください」
本当は切っちまいたいけどな。
「でね、とにかく鼻がむずむずして気持ち悪いのよ。で、思い出したんだけど、私ね、毎日、お部屋を換気してからアロマを炊くのよ。ペパーミントが気持ちよくって好きなのよ。でね、おたくから定期でペパーミントのオイルを買っているんだけど、先月欠品しているから定期注文できないっていってたでしょ。今月はどうなのかしら」
はあ。そういうことかい。
さっさと言わんかい。
そういうことなら、昨日その商品の欠品は解消されたって通達があった。
よしよし。
「かしこまりました。ご心配をおかけして申し訳ございません。
ペパーミントオイルは昨日欠品が解消となりましたので、いつでもご注文いただけます。」
さすがベテランな私。にこやかにかつ澱みなく滑らかに回答したわ。
さあ、注文をしなされ。
「ホントに?前もそんなこと言ってすぐ欠品になったこともあったわよね。
もう一回調べてきてよ。」
くくく・・・確かにそういうこと、あった。
悔しいが、確認をしなくては、念のためだ。
「かしこまりました。ただいま確認をしてまいりますので、
このまま少しお待ちください。」
「早くしてね、私時間ないのよ。すぐ出かけなくちゃいけないから。
ちゃっちゃとお願いよ!」
カスタマーセンターはお客様のために今日も頑張っている。
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