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【名盤伝説】 “Stuff / S.T.” 伝説が伝説を呼ぶ、NY実力派ミュージシャンの魂がこもった名盤。

MASTER PIECE 伝説のクロスオーバー / フュージョン・グループスタッフのデビューアルバム『スタッフ』(1976)です。

1960年代後半のニューヨーク。当時スタジオ・ワークを中心に活動していたミュージシャンらが、連日ミケールズというライブハウスに集まりセッションを楽しんでいたのだそうです。
セッションはその日ごとにメンバーも入れ替わり、70年代になると次第にミュージシャンも固定していきます。ここに集まっていたのはコーネル・デュプリー(G)、リチャード・ティー(Pf)、クリス・パーカー(Drs)、スティーブ・ガッド(Drs)、そしてエリック・ゲイル(G)に影の中心人物ゴードン・エドワーズ(Bs)・・・
伝説のバンドスタッフの誕生です。

そんな評判を聞いた大手レーベルのプロデューサーのトミー・リピューマらによりレコーディングされて、1stアルバム『スタッフ』が完成しました。

1976年7月モントルー・ジャズ・フェスティバルにスタッフ名義で出演(クリス・パーカーは不在)した時のもので、アルバム・リリース直前の貴重な映像です。

時代はクロスオーバー / フュージョン全盛期。まだ高校生だった私もジェフ・ベックの名盤『ブロウ・バイ・ブロウ』でインスト物に目覚め、リー・リトナークルセイダーストム・スコットなどを夢中になって聞いていました。そんな中でNYの実力派スタジオ・ミュージシャンが集まってバンドを結成したとのニュースにワクワクしながらFM番組でかかるのを楽しみにしていました・・・が、流れてくる曲の何ともいなたい雰囲気に困惑。渋すぎです。アンサンブルも全然タイトじゃないし、ギターも歪んでいないし(笑)。このゆったりとした重たいリズムに身体がついていけません。お兄さん達のバンドというより、お父さん達のバンドって感じでしたね。

バンド結成までの経緯を知ると、レコーディングで緊張した気持ちをほぐすのに集まってセッションしていたというのなら、こんなゆったりとしたテンポで演りたいでしょうね。でも、このテンポでもグルーブはちゃんとあるのです。聞こえてくる音とは裏腹に、腹の底から湧き上がるようなミュージシャン・スピリットとでも言いましょうか、音楽対しての分厚い想いは半端ないのだなと。
やっぱり大人の音楽です。

世間では、FM番組のテーマとして採用されたM2「マイ・スィートネス」の美しいピアノ・アンサンブルが人気ですが、私はやっぱりM1の「フーツ」に限ります。

楽器初心者でも簡単にコピーできそうなテーマですが、この曲はバンドで演奏しても、全然決まらないのです。このテンポでこのグルーブを表現するには、並の技量では決して再現できません。

その後のメンバーの活躍は言うまでもありません。バンドとしての活動は、その後に何枚かのアルバムをリリースした後に消滅してしまいますが、現役として新旧様々なミュージシャンのサポートとして世界中を飛び回り大活躍します。

お父さん世代の方々なので仕方ありませんが、1993年にリチャード・ティーが癌のため50歳で死去。翌94年にはエリック・ゲイルも癌によって56歳で死去。コーネル・デュプリーも2011年69歳で病気で亡くなられます。今の自分の年齢よりも若くして亡くなられている方が・・・皆さん存命なら80半ばということになります。彼らが30代バリバリの現役時代の音だなんて信じられない成熟した技です。

自分が相応の年齢になって改めて聞き直すと、この渋さは堪りません。懐かしさだけでなく、プロデューサー氏のポップなセンスと共に、時代のNYの空気をしっかりと閉じ込めた、至福のクロスオーバーなアルバムです。



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