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こだわりにこだわるな〜「思春期」の二次障害対応〜

小栗正幸先生(特別支援教育ネット代表)の講演を聞いて学んだことをまとめました。凝り固まった指導観のピントをずらしてくれるとても良い内容でしたので参考にしてください。


思春期の二次障害とは

児童期と違い、思春期は複雑な発達段階の最中です。
思春期の二次障害は一言で言うと「人間関係が崩壊している状態」です。

人間関係には横と縦の関係があります。

横の関係は友達や恋人などのイーブン関係を指し、縦の関係は先輩や、親、先生などの社会的なパワー関係、を示します。

思春期の二次障害はこの縦と横の関係が崩れています。

なぜ人間関係が崩壊するのか?

簡単に言うと、「思ったようにならない状況」により「メタ認知が弱まっているから」です。
人間は思ったようにならない状況に陥ると誰でもメタ認知が弱まります。

例えば、あなたが全く文化と言語の分からない異国に行くことを想像してみてください。外国での言語や文化が理解できない状況など、思った通りに事が進まない場面に出会します。
このような状況では不安や多動、閉鎖的な態度が生まれ、結果として周りから誰もが障害者と見なされることがあります。

発達障害などで環境の不一がある場合は、この異国状態と同じで、社会の流れから外れやすくなります。

二次障害への基本的な対応法

人間関係の崩れた二次障害に対して「そんなこと言わないよ」といったストレートな単純対応では効果がありません。
生徒のこだわりに先生がこだわらず、ピントをずらすことが大切です。

ピントをずらせない先生にもこだわりがあると考えられます。
子どものこだわりにこだわり過ぎないようにしましょう。

また、長期的な視点で支援を行うことも重要です。
思春期の二次障害の不適切な行動は、ある日を境に急に停止するのではなく、再発期間が徐々に長期化しながら停止していく傾向があります。
一日単位での変化ではなく、いったりきたりの紆余曲折と螺旋構造を描きながら、徐々に変容していきます。
不適切な行動を起こす子でも、朝から晩まで悪い子ばかりではなく、良い子である瞬間も存在します。朝から晩までの中で嬉しい瞬間を増やし、信頼関係を築くことが重要です。

このためにも学校や家での日常の空間、本音が出やすい場所が鍵となります。
特別な空間ではなく、雑談中や休み時間において、児童がリラックスした状態がコミュニケーションのチャンスです。

ピントずらしの重要性とその手法

思春期の二次障害に対応するためには、相手への肯定的フィードバック、つまり「ピントずらし」が必要です。
これは特に、支援が必要な人、自ら考え判断し行動する力のない人に対して効果的です。


興奮しやすい子へのピントずらし

興奮しやすい子に対して直接指導しては興奮するだけです。
例えば

「あなたは嫌なことがあるとすぐに興奮すると思われてるけど、実は我慢しているときが多いんじゃないですか?」

などと伝えることで、相手は心を開いて話すことができます。
誤りを指摘する際も、

「そんなことを堂々と言えるなんて羨ましいね。」

などと肯定的な言葉から入ることが大切です。

ハラスメント傾向の子へのピントずらし

ハラスメント傾向の子は度が過ぎた、上から目線や下から目線の価値観となっています。
メタ認知に課題がある場合、恋人よりも召使を求めていることが多いかもしれません。

「あなたはメイドのような恋人がほしいの?」

と問いかけ、相手が否定的な場合でもユーモアを交えながら関係を構築することがポイントです。
拒否してきたら

「そうだね、そしたらあなたはメイド料金をはらわないといけないからね。」

などと軽いトークを交えつつ、お互いを大切にする対話に持ち込みましょう。

嘘をつく子へのピントずらし

嘘にその子だけで自己完結する「善なる嘘」と相手に危害を加える「悪なる嘘」があります。
善な嘘つきの子は単なるおしゃべりっ子であり、とりとめのない嘘には子供らしい多弁さが背景にあります。つまり「口の多動」です。
これはコミュニケーションの手段としての側面も含まれています。
嘘にのって、その子との関係を深めるチャンスが生まれることもあるため、相手の興味関心を膨らませてあげましょう。

一方で、非行を否認する悪なる嘘には、無理に吐き出させるのではなく、不安を引き出すことが効果的です。
関係者から話を聞いた上で事実を整理し、

「この件は警察への被害届を含めて考えてみます。」

と真剣な顔で伝えることが重要です。
数日後、子供が「どうなったのか?」と聞いてきたら不安を抱いている証拠です。
不安は犯罪抑制要因になります。
良性の不安は皆のためになる不安です。
嘘はその子の人生でいずれ暴かれます。
無理に犯人解決するのではなく不安を仰いで自ら辞めさせるのが良策です。

不登校の子へのピントずらし

不登校の子は言語化ができずモヤモヤしています。
「普通」が不安で「特別」が好き。でも毎日が「特別」だと疲れる。注目されるのは不安、注目されないのも不安という状態です

彼らは縦と横のバランスが不安定で、青春力が乏しいのです。

友達の言いたいことを私たちに伝えてほしい。そして私たちの言いたいことを友達に伝えてほしがっています。
また、恋愛講義が交わせません。意図的に恋愛を語り合う機会を作ると興味関心をもちます。

傾聴が大切な一方で、同時に軽いタッチで接することも欠かせません。
不登校の子が「縦の関係を嫌う」理由は、大人が深海魚のようだからです。
健常者にとって心地よい情緒関係が彼らにとっては重く感じられ、息苦しい側面もあるのです。

彼らにとっては、ウェットなアプローチではなく、ドライな対応が望ましいときもあります。ウェットな傾聴も大切ですが、子供たちが心地よく感じるよう、ピントをずらしてテンポを軽くドライな姿勢も必要です。

死にたいという子へのピントずらし

死にたいという子に対しては、

「そうか、そんなに苦しんでいることを話してくれて嬉しい!」

といった形でピントをずらします。
死への傾聴というストレートな対応は避け、愛着に対して息苦しくならないよう心掛けます。
その上で本人が前向きになれる環境を相談しながら共に考えていきます。

まとめ

以上「ピントずらし」に焦点を当ててまとめてみました。
思春期の二次障害に対応する支援者には、様々な状況への理解と柔軟な対応が求められます。
人間関係の崩壊や特定の行動に対して、ストレートな指導だけでなく、生徒の個々のニーズに焦点を当てピントをずたした肯定的な対応をしましょう。長期的なサポートを提供しましょう。



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