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何気ない日常の積み重ね 「PERFECT DAYS」を観て

「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演)を観てきた。
(ネタバレありかも)

主人公はまるで、修行僧のような生活を送っている。
目覚ましも鳴らない早朝、かっちり目が覚める。
調理道具も持たずに、テーブルもない。
必要最小限の物に囲まれた暮らし。
仕事のトイレ掃除は見えないところも、磨くように丁寧に。

ただ、悲壮感は漂ってない。
必要最低限のことしか口を開かないので、人と関わるのを拒絶しているのかと思えば、人に接する態度に温かみがある。

楽しみも必要最小限。
自炊はしないけれど、自堕落ではない、きちんとした生活。

なるべく、自分の人生が波風立たないようにひっそり暮らすのを決意しているようだ。
でも、ひっそり身を隠すように暮らそうとした人生にも、人と関わる機会は訪れる。

過去のどうしようもない家族との葛藤、愛しい姪っ子、淡い恋、人生の最期を迎えようとしている人との会話……。

何気ない日常の積み重ねの日々も、人生は彩りに溢れている。
必要なものは揃っている。人生は完璧。
皆等しく夜明けがやってくる。

夕陽から夜景へと変わる明かり、日が昇る様子……。全て、日々の暮らしが愛しく思える瞬間。

☆☆☆
この映画を観ながら、母方の祖母のことを思い出した。
薄暗い、ビルの谷間のような狭い家に住んでいた祖母。
しばらく1人で暮らしていた。
お正月に訪ねると、野菜を細く千切りにした松前漬けに感動したものだ。野菜の切り方が大雑把な母に比べて、料理が丁寧に仕込まれている。

戦争をくぐりぬけ、夫が早くに亡くなったあとの4人の子育て。血を分けない子も迎え入れた人生。
口数少ない祖母だった。苦労話を聞いたことがない。
戦争を生きてきた人は物を大切にする。大切に貯めたタオルやティッシュを孫の私に分けてくれた。
いつ訪ねても、整理整頓された家。日々の暮らしを丁寧に送っていた祖母。

その暮らしぶりが、私の脳裏に収まっている。
祖母の姿が、日々をどうやって生きていくか、その秘訣を私に教えてくれている。

☆☆☆

ヴィム・ヴェンダース監督といえば、「ベルリン・天使の詩」。天使がベルリンの街を見下ろす場面が頭に思い浮かぶ。
東京を上空から眺める視線は、日常を日々淡々と暮らしている人々を温かく見守っているみたいだ。


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