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ティルマンスの「Moment of Life」@エスパスLV東京と、奈良原⼀⾼の「Fashion」@amanaTIGPをはしご


 東京・表参道で開かれているヴォルフガング・ティルマンスの写真展「Moment of Life」と、六本⽊での奈良原⼀⾼の写真展「Fashion」をはしごしてきました。きっかけは、懇意にしているカメラ卸の担当者の「奈良原は好きな作家ですが、ティルマンスという名前は初めて聞きました。どのような写真を撮っているのですか」の⼀⾔でした。ティルマンスについては、渡部さとるさんの動画や大和田良さんの著書などで予備知識を持っていたのですが、作品を直接、観賞したことがなく、答えに窮してしまいました。回答が見つかるかもしれないとの思惑もあって実際に作品を見てみたくなりました。奈良原についても、写真集を読んだことはあっても、ファッション写真を積極的に撮っていたことを知りませんでした。新しい一面を知ることができるかもしれないという期待がありました。

 ティルマンスは1968年にドイツで⽣まれた写真家です。⽇常⾵景をスナップのように撮影した作品を、インスタレーションのように会場に配置することで知られ、世界的に評価されています。「Momento of Life」展は、ルイ・ヴィトン財団が収集した作品の⼀部を展⽰することで、彼の世界観を紹介するのが狙いだとされていました。

 会場の「エスパス ルイ・ヴィトン東京」を訪れるのは初めてでしたが、⼈数制限がかけられているようで、最も多かったときでも10⼈ほどでした。僕よりも⾼齢の⽅はいなかったように思います。作品は同店のギャラリースペースの壁5⾯に計21枚、展示されていました。花や窓辺に置かれた⼟産物、窓ガラスに写った電灯、くつろぐ⼈たちなどで、⽇常の⼀部を切り取ったような写真が多かったです。全てカラー写真で、構図に⼯夫を凝らしたものもあれば、無造作にみえるものもありました。しかし、作品の⼤きさや並べ⽅がバラバラで、どの壁から観賞したらよいのか、とっかかりがなくて困惑してしまいました。プリントの⼤きさや配置に意味を持たせているのだろうと想像できましたが、僕にはその意図をくみ取ることはできませんでした。「ティルマンスは、こういう作品を撮っており、こういう理由で世界に認められています」という答えをその場で⾒出すことができませんでした。

 頭の中がまとまらないまま、奈良原の「Fashion」展を観賞するため、六本⽊にあるamanaTIGPまで歩きました。奈良原は1956年に福岡県で⽣まれ、2020年に亡くなりました。⼥⼦刑務所や男⼦修道院を撮影地とし、閉ざされた空間での⽣活を追うことで⼈間⼼理の真相に迫ったとされています。東松照明や細江栄公とともに、写真家によるセルフエージェンシー「Vivo」を結成したことで知られ、1960年代後半にはヨーロッパとアメリカでも撮影を行い、日本の写真家が海外で活躍する先駆けになった人物と評価されています。

 会場に着いて記名帳をみると、この日、僕の前に訪れたのは2⼈だったということが分かりました。観賞中に高齢の男性が訪れてきたのですが、ほとんどの時間を独占することができました。会場にはファッション誌の表紙を飾るなどした作品18点が並んでいました。これだけの数のプリントされた奈良原の作品を一度に鑑賞するのは初めてです。作品は同じ額装に入れられ、等間隔に並んでいました。1点のカラー写真を除き、全てモノクロでした。まず⽬を奪われたのは質感表現でした。例えばセーターでは、縫い⽬までしっかり再現され、⼿触りを容易に想像することができました。また、⾞の光跡が残るような暗い場所なのに、⾐服やモデルの肌の質感をしっかりと捉えた作品もあり、ライティングや露出を綿密に計算して撮影していることが伺えました。

 ファッション誌に掲載するための写真は一般に⾐服がメインになり、モデルがサブになるものだと思います。しかし、モデルにも衣服と同じくらいの存在感を感じることができました。また、海中から突き出した⽊⾺に腰掛けるモデルや⾶んでいる⽶軍ヘリコプターの下でポーズをとるモデル、メインの被写体である靴よりも下部にモデルの顔を配置するなど、ちょっと変わったシチュエーションの作品が多く、実験的な構図や芸術的な表現の作品もありました。ファッション誌という制約の中で、いかに⾃⼰表現を⾏うかに挑戦しているように感じました。

 筆跡が人それぞれで違っているように、写真にも自然とクセや個性が出てしまうものだと思います。また、先駆者や同時代の写真家の影響も自然と受けてしまうものだとも思います。それを乗り越えて表現の幅を広げる大変さは想像に難くありません。対照的な2つの写真展を同じ日に鑑賞しましたが、選んだ被写体の違い、展示方法などに違いこそあれ、それぞれに⾃分なりの表現を模索しようとしていることや、先駆者を乗り越えようとする意思を感じることができました。これらを言葉にするのも、とても難しいことです。さて、前段の担当者にはどうやって伝えたらよいのでしょう。観賞眼をもっともっと磨く必要がありそうです。
                     (観賞日:令和5年2月24日)

「ヴォルフガング・ティルマンス ― Moments of Life」
会期:令和5年2月2日(木)〜 6月11日(土)
会場:エスパス ルイ・ヴィトン東京

「奈良原一高 ― Fashion」
会期:令和5年2月10日(金)~ 3月11日(土)
会場:amanaTIGP(アマナ・ティーアイジーピー)


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