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フィルムスキャナを3Dプリンタで自作

●これまでの経験上感じた既製品スキャナの限界

ボクはこれまでフィルムスキャナをいくつか使ってきた。かなり前の話なので自分自身忘れかけていたところもあったが、昔の写真を漁ると思い出してきたので下記に紹介する。

35mm判専用としては、下記3機種。
・MICROTEK ScanMaker35t Plus
・Nikon COOLSCAN LS-2000
・Nikon COOLSCAN IV-ED

そして中判用フィルムスキャナとして下記2機種(45判も可能だが)。
・Polaroid Polascan45
・MICROTEK ArtixSCAN 120tf

それから、透過原稿ユニット付のフラットベッドスキャナもこれまで4機種ほど使ってきた。今現在使っているのは、EPSON GT-X900というもの。

どうしてこんなに何種類も買ったのかと言えば、結局のところどれも良い結果が得られなかったからだ。「別の機種ならもっと良い結果が得られるかも知れない」という期待感を込めた結果、こうなった。だが、なかなか都合良くいかない。どれも期待した画質が得られなかった。

高い機種を購入すると期待値も高く、結果が悪くても「自分が使いこなせていないだけだ」と考えて、色々とパラメータを変えたりして努力する。確かに、使っていくうちにクセが掴めてくるのだが、同時に限界も見えてくる。

●スキャン光とピントの問題

これまで何機種も使っていくうち、何となく原因が分かってきたように思う。それは、スキャン光の問題と、ピントの問題。

スキャナのスキャン光(冷陰極管やLED)は常に一定の輝度であり(輝度や色温度を安定させるため常時発光させている機種がほとんど)、画像の明るさを調整するのはスキャン後にソフトウェア的に行われる。だがその方法では、調整する分だけ画質は悪くなる。
明るい部分、いわゆるハイライト部はともかく、暗い部分、いわゆるシャドー部ではスキャン光の明るさが足らないとシャドー部は黒一色に塗り潰されたデータが生成されるので、後から画像調整したところで埋もれた階調が出てくることは無い。もしフィルム上のシャドー部に埋もれている階調を引き出したい場合であれば、スキャン時にスキャン光そのものを強くしてシャドー部の階調を引き延ばすしか方法が無いのである。

それからピントの問題については、スキャナのピントは平面上で合うよう設計されているが、実際のフィルムは多少歪みがあって完全な平面ではない。特に中判フィルムは面積が広いわりに薄いし、そして画面に対して余白が少ないのでフィルムホルダーがフィルムを固定する部分が指先で摘まむかのように狭い。
しかも、フィルムのサイズは様々であるし、形態もスリーブ状態だったりマウントにハメたものであったりするから、ホルダーをマジメに作っていたら10種類くらい用意しなければならなくなる。そんなに種類があっても1人のユーザーが全てのホルダーを必要とするわけではないので、製品としてはムダなものとなる。だからある程度の想定でホルダーは作られる。例えば中判フィルムはスリーブ状態のものをセットするホルダーだけというふうに。
だが中判フィルムのスリーブを保持するには両端を固定するしかない。それでは中央部はたわんでピントが合わなくなる。それに、1コマずつカットしたフィルムをセットしようとすると、それはほとんど不可能な話。
これはホルダーの問題だから、いくらスキャナ本体が高性能であってもどうにもならない。

まあ、上に挙げたスキャナはフラットベッドスキャナ以外はどれもSCSI接続やIEEE接続なので、今となっては動かすことも出来ないのだが、新たにフィルムスキャナを買い直す気にはなれない。

●ニコンのデュープアダプタ

写真の世界では昔から、フィルムを複製(デュープ)するためのアクセサリが存在する。ボクは35mm判のカメラはニコンを愛用していたので、ニコンのデュープアダプタを持っている。これをデジタルカメラで利用してフィルムをデジタル画像にデュープするのはどうだろう。簡易的なフィルムスキャナになりそうだ。

(※正確な表現として、ワンショットで画像化するものは「スキャン(走査)」とは言えないが、ここでは話の繋がりとしてスキャンと言うことにする。)

この方法を思い付いた時はまだデジタルカメラがAPS-Cで600万画素の時代だったので満足いく画像は得られなかったものの、将来のデジタルカメラの性能向上で期待できるやり方だと思った。

そして最近、ようやく高解像度のフルサイズデジタルカメラが手に入る時代になり、ここ数年はこの方法でフィルムスキャンをしている。

<ニコンのデュープアダプタでスキャニング>

この方式のメリットとしては、バックライトの強さを自分でコントロール出来ることと、ピントを自分で調整出来るということ。つまり、フィルムスキャナで問題になっていたところを難無くクリア出来てしまう。
そして前回の記事に書いたように、6,000万画素カメラを使えば解像度的にも不満が無い。

ボクの場合、バックライトにストロボを使っている。簡単に強力な光を得られるので十分に絞り込めるし、白色LEDのようなスペクトルの不連続さが無いので使いやすい(ストロボ光は無条件に信じられる)。

ただしこのアダプタでは、1枚1枚のセッティングに手間がかかる。
拡大率調整のためにアダプタが伸縮・回転出来るようになっているし、フィルムの位置が微調整出来るだけあって一定の場所で決まらない。だから、フィルムをセットし直す際にズレたりしてしまうので、1枚ごとに位置を微調整しなければならないのだ。次々にスキャンするには効率が悪い。
そして何と言っても、中判フィルムは使えない。それが一番重要なのに。

●自分で作ってしまえ

じゃあ、自分で中判フィルム用のスキャニングホルダーを作ってしまえば良いと思った。実は前々からそうしたいと思っていたのだが、なかなか踏ん切りが付かなかった。けれども今、別の用途で購入したものだが3Dプリンターが手元にある。2万円でこんなものが買えるのだから良い時代になったものだ。ちょっとやってみるか。

3Dデータ作成用として、15年くらい前に使っていた「Shade」というソフトを久しぶりに引っ張り出してインストールしてみた。少々表示がおかしな部分があったものの何とか使えそうだったのでモデリングしてみた。驚いたことに、操作法は指が覚えていて無意識に動かせるではないか。

<Shadeで3Dデータをモデリング>

ここで作ろうとしているホルダーは、中判の中でも66判に特化したもので、1コマにカットしたフィルムの四隅をキッチリ固定できるものとした。
それから、バックライトの光にムラが出ないよう、乳白色の拡散板は2段式とした。

モデリングが終わったら、Shadeデータを汎用のobjファイルにエクスポートし、フリーのスライスソフト「Ultimaker」でスライスし、そのデータをマイクロSDカードに書き込んで3Dプリンターにセット。

<スライスソフトUltimakerでスライス>

このくらいのデータだと、3Dプリンターが作るのに10時間くらい必要になるようだ。最近は厳しい寒さのため、温度差のせいで造形物の端が反ってくる。仕方ないのでエアコンを強めにして室温を上げて作り直したりした。

<3Dプリンターで造形中>

結局のところ、このホルダーを完成させるのに2週間ほどかかってしまった。というのも、実際に使ってみると使いにくいところやスキャン結果に問題があったからで、その都度改良していったからである。
せっかくなので、ここでは初期のVer.1から完成形のVer.5まで並べてみた。

Ver.1は、単純に白い樹脂で造形したもの。
白いホルダーはフィルム表面の端に映り込みが出てしまう。

Ver.2は、黒い樹脂で作り直したもの。
映り込みが無くなったものの、内部まで黒いので下からのバックライトがうまく拡散せず、四隅が暗くなってしまった。
それに、ピント合わせ時に暗いのが難点。

Ver.3は、上面だけを黒くした。
手前側に開口部を設け、ピント合わせのためのモデリングランプ用の明かり取り窓とした。
しかし乳白色の拡散板が近いせいかゴミが目立つ。バックライトのムラもまだ気になる。

Ver.4は、拡散板のゴミの影響を少なくするためフィルムとの距離を開け、
同時に2枚の拡散板同士の距離も開けた。
しかし、まだ効果が薄い。
それから、フィルム交換時にホルダー全体を手に取るので、再セットの位置決めが面倒。

Ver.5は、フィルムや拡散板の距離をさらに開け、そして黒いホルダー部分を取り外し式とした。
このようにすることで、ライトボックス部分はそのままで、ホルダー部分を付けたり外したりするだけで良くなった。位置決めもライトボックスが所定位置から動かなければ良い。

そしてこれはスタンドにセットできるようになっている。これによって下にストロボを入れるためのスペースを作るわけだ。

<スタンドにセットしたホルダー>

カメラは、コピースタンドにセットして使う。
ちなみにこのコピースタンドは、プリント写真を焼く時に使っていたLPL製引伸し機のヘッドを外したものを流用した。昔のカメラマンなら誰でも持っていたはず(?)
カメラはUSBケーブルでPCと接続し、PC側でテザー撮影を行う。まさにスキャニング感覚そのもの。

<自作ホルダーで中判スキャニング>
<黒いホルダー部は簡単に外せる>

スキャニングの結果は、小さな画像ではあまり参考にならないかも知れないが、多少露光不足のフィルムでもシャドー部の階調がキッチリ出ているのが素晴らしい。

<66判フィルムをスキャン>

ピントも、AFマクロレンズを使って瞬時に合焦するので面倒が無い。この投稿画像で見えるかどうか分からないが、フィルムの粒子までキッチリ写って気持ちが良い。過去にフィルムスキャナでスキャンしたものと比べても優っている。

<部分拡大>

ここまでホルダーを自作したら欲が出て、どうせホルダー部が取り外し式ならばと、66判マウントホルダーと35mm判マウントホルダーも作ってしまった。

<3種類のホルダー>

これらのホルダーを駆使すれば、画像のクオリティだけでなく、作業効率も格段にアップする。流れ作業のごとく次々にセットしていける。
自分専用で限定したサイズで作ったホルダーだから実現出来たと言えよう。

前回の記事では、66判カメラからデジタルカメラに移行するために6,000万画素のものが最低限必要だったということを書いたが、過去の遺産である66判フィルムをデジタル化するにも大いに意味があった。

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