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【句集紹介】象 宇多喜代子句集を読んで

・紹介

小生が初めて参加した句会は、伝統俳句系の句会であった。故に写真のような写生句が、評価を得やすく、右も左も分からなかった小生も例に習って、きっちり有季、きっちり定型で句作に励んでいた。

そんな小生であったから、ぶらりと立ち寄った本屋で立ち読みした、宇多喜代子先生の句集には脳天をぶん殴られたかのような衝撃を受けた。

今でも愛唱している、宇多先生の代表句。

八月の赤子はいまも宙を蹴る

この句を百貨店の本屋で見かけた時、小生はしばらくその場を動けなかった。小生がそれまで詠んできた句とはまるで違った。この句は叫びであった。戦争に対する怒り。庇護されるものが死んでいく不条理。作者の心からの静かなる絶叫であった。

その時、小生は合点がいった。これが本当の俳句なのだと思った。小生はその本を棚に戻して(今思うと、何故買わなかったのだろう)。家に直帰して、句作を始めた。今までの作っていた句とは違う言葉使い、言葉の配置。その日から少しずつ、自分らしい表現への試行錯誤を始めたのである。小生にとって宇多喜代子先生は、俳句の新しい表現を深めたいと思うに至ったきっかけを作ってくださった、大恩人なのである。

本書は俳句界の芥川賞ともいわれる蛇笏賞を受賞した句集であり、平成元年から10年ほどの間で、宇多先生が詠んだ句の自選集になる。

そこから例によって、特に小生が気になった10句を厳選した。(本当は30句ぐらい乗せたかった。そこから絞るのはとても大変な作業であった)気になった方は是非読んでみてください。

実はこの句集、小生の俳句の師匠に「宇多喜代子さんの句集が欲しいのですが見当たりません、貸していただけませんか?」と聞いたところ、師匠が宇多先生と知り合いだったことが発覚し、宇多先生が貧困に喘ぐ小生のために送ってくださったものなのだ。本当にありがたい。この場を借りて宇多先生には心から御礼申し上げたい。ありがとうございました。

・厳選10句

愚直なるべし愚直なるべし初燕

弟をつれておそろし夏の原

蛍にまぎれし兄を思いやる

蚊帳の中いつしか応えなくなりぬ

かの象の戻らぬ道の日雷

山蛭の言い分も聞こうではないか

子にはぐれ夏帽の父歩きだす

八月の窓の辺にまた象が来る

天空は生者に深し青鷹

亡き人の亡きことを思う障子かな

・作者略歴

宇多喜代子。昭和10年山口県徳山市生。遠山麦浪、前田正治、桂信子に師事。「草苑」編集長、大阪俳句研究会理事、「草樹」会員代表、現代俳句協会会長などを歴任。日本芸術院会員、文化功労者。現在は現代俳句協会特別顧問在職中。

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