しぐれ

小説、新書、漫画、音楽など、触れて自分が人に伝えたいと思ったことを書いてみようと思いま…

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小説、新書、漫画、音楽など、触れて自分が人に伝えたいと思ったことを書いてみようと思います。

最近の記事

人間の肯定という至上命題 呪術廻戦過去編

特権性を持った人間は何に奉仕すべきか、才能は誰のものか。 夏油のヒューマニズムとその挫折、五条の愛や共感に基づかない無条件の人命尊重。 そんな、呪術廻戦過去編についての書き散らしです。ストーリーへの言及を含みます。 五条と夏油、この2人の天才の思想は対照的だ。圧倒的な力を持ちつつも弱者救済は嫌いだと公言し、でもその能力を使ってやりたい悪事もないので差し当たり人助けに力を使う五条。一方で自身の特権性を自覚して意識的に自身の能力を、力を持たないもののために使う夏油。 呪術廻戦

    • 既存の差別が差別を再拡大すること シャルコーの臨床講義

      「シャルコーの臨床講義」という絵画を最近知りました。これは神経学の父と言われるシャルコー医師が、実際のヒステリー患者さんを医学生の教育の場に連れてきて診断学の講義を行う様子を描いたものだそうだ。ヒステリーというのは今では使われない病名で、現在は変換症/解離性障害などと呼ばれることが多い。病気というよりは、単に状態と言ったほうが適切だろう。 名前自体は耳慣れないが、大きなストレスで多重人格になったり記憶を失ったというエピソードや、声が出なくなったという話は聞いたことがあると思

      • 作品に対する好きは全肯定ではなくて。

        本でも音楽でも映画でも漫画でもゲームでも、好きな作品に対する「好き」は全肯定ではないんだよな、とよくおもう。 誰かと話をしていてわたしが本が好きなことが知れると、「おすすめの本はある?」と聞いてくれることがある。そのたびに答えに窮し、たいていは何も言えないのは、好きは全肯定ではない、という前提が相手と共有できていないからだと最近思う。 好きな本を聞かれたら、高橋和巳の悲の器とか、村上龍のコインロッカーベイビーズとか、大岡昇平の野火とかを真っ先に言いたい。でもそれらを読んで

        • 藤本タツキ「ファイアパンチ」 生きる意味を外部にしか持てないなら

          あなたは生きる意味を必要とする人でしょうか? この記事は、藤本タツキ「ファイアパンチ」3巻までの内容を含みます。3巻までは序章ですし、この漫画はネタバレが重要な作品ではないと思いますが、ネタバレが嫌いな方はご注意ください。 また序章までしか触れていないので、読んだことのない方や途中でやめてしまった方が読む機会になってくれたら嬉しく思います。 少し長い前置き 私はある時期から、生きていくために、自分の生を肯定する何かを必要とするようになりました。その "何か" はきっと

        人間の肯定という至上命題 呪術廻戦過去編

          自分とよく似た他者の存在を、遠くに感じた瞬間

          米津玄師の「サンタマリア」という楽曲のMVが、狂おしく好きだという話。 この楽曲では、ガラスの壁を隔てて話をする2人の人物が描かれる。2人は一つの面会室にいて、手のひらを合わせられるほど近くにお互いの存在を感じていながら、互いに触れ合うことができない。この2人の片側が「僕」で、彼の視点から歌詞が語られる。 ー 今呪いにかけられたままふたりで いくつも嘘をついて歩いていくのだろうか (中略) 様々な幸せを砕いて 祈り疲れ 漸くあなたに 会えたのだから ー こうした歌詞とM

          自分とよく似た他者の存在を、遠くに感じた瞬間

          ヨルシカ「靴の花火」とよだかの星

          「靴の花火」は優しいギターの音色と美しくも痛切な歌声が胸を刺す、ヨルシカの代表的な楽曲の一つだ。MVでは悲しげな一人の少女が描かれ、その合間にフラッシュのように「よだかの星」の文章の断片が映り込むことで、小説と音楽とが共鳴しながら展開していく。 https://youtu.be/BCt9lS_Uv_Y ご存知の方も多いと思うが、この曲は宮沢賢治の小説「よだかの星」が歌詞のモチーフに使われている。私自身、この曲に出会ったことでこの小説を読み、そして小説を読んだことでまた曲の

          ヨルシカ「靴の花火」とよだかの星