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20代地方公務員の退職者数は5年で1.6倍になっている~地方公務員カタリスト事業を始めます~

仕事に関する人間らしい欲求とは何かということを考えることが多いのですが、シンプルに「自分がやりたいことを仕事にしたい」以上の答えはなかなか見当たりません。

一方で、多くの自治体における人事はこの逆を行っていると感じます。職員は数年おきに部署異動を繰り返しますが、配属決定プロセスはブラックボックスとなっています。当人の納得が得られても得られなくても、その決定に従う以外の選択肢がありません。冒頭の「人間らしい欲求」に対して、とても「機械的」です。配属ガチャという言葉は上手い表現だなと。

この点について、誰かを批判しようというつもりはありません。この人事慣行は日本に地方自治が持ち込まれた時から連綿と続いてきた営みであり、当時の環境に照らせば一定の合理性があったと考えるからです。

問題提起したいのは、「今の時代にはミスマッチになってきている」という事実です。自治体からはどんどん人が離れていっています。

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総務省が毎年度発表している「地方公務員の退職状況等調査」から、20代一般行政職の普通退職者数を集計してみると、2013年度の1,564人から2018年度の2,517人へと、5年で約1.6倍になっていることがわかりました。

なぜ若手を中心に離職が増えているのでしょうか?この背景には価値観の変化があります。もっと踏み込んで言うと、価値観が変わったことによって「自治体が職員に提供できる報酬が相対的に下がった」と考えています。

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報酬とは金銭的報酬と非金銭的報酬に分けられますが、「食いっぱぐれなさそう感」は地方公務員の非金銭的報酬の構成要素になっていました。現に自分自身も、新卒で地方公務員になった際にはある程度の安定性を期待していたところがあります。

しかし、価値観は大きく変わっています。民間であっても行政であっても、「終身雇用」という幻想はこの10年で社会的前提たりえなくなっています。生駒市の小紫市長は自治体であっても終身雇用の維持はできないと著書等で述べられていますね。これまで自治体が提供していた「所属による安定」つまり「公務員であれば一生安泰」という考え方はもう通用しないと、多くの方が気付いてしまった。

次第に人々の目線は「所属による安定」ではなく「市場価値による安定」に移っています。当然、自由にキャリアをデザインできる環境へのニーズが高まっているわけです。

これにより、自治体の機会的な人事運用と働く人が求めることのギャップが開き続けています。結果として、辞める人が増えていると分析しています。

ソリューションとしての地方公務員カタリスト事業

自治体職員であっても、「自分のキャリアを主体的にデザインできる」という人間的に当たり前な思いを叶えるために、地方公務員カタリスト事業を立ち上げます。

これは、職員が培ったスキルを活かして、週1日~・リモートで他自治体の支援を行うスキームです。いきなりジョブローテーションを全廃するのは非現実的ですが、週に1日はプロフェッショナルなキャリアを追求できるようにしています。

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Googleの20%ルール(業務時間の20%は本業以外に充ててよいルール)に近いかもしれません。

次にそもそもカタリストとは何か?という話ですが、日本語で言うと「触媒」です。触媒とは、化学反応によって相手を変化させる物質です。つまり、自治体職員が「カタリスト(触媒)」として支援先自治体に自分のスキルを伝えることで、その自治体の問題解決力を高めることを目的としています。単なるアウトソーシングではないということです。

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これから立ち上げる一般社団法人では、カタリストのプラットフォーム運営を行います。「カタリスト」として他自治体の支援をしたい職員と、支援を希望する自治体をマッチングするプラットフォームです。

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前身の「地方公務員レンタル移籍事業」では、週5日フルタイムでの出向を前提としていましたが、上手くいきませんでした。理由としては、出向を前提にした途端に、住宅はどうするの?1人分空いた穴はどうやって埋めるの?といった労務面の調整負荷が大きくなるためです。特に、職員を出す側の自治体にとってのメリット・デメリットのバランスを欠いていたことが痛かったです。

そこでカタリスト事業では、週1日~・リモート前提・研修扱いという労務の負担を最小限にしています。また、カタリストとなった職員のキャリアに対する満足度が高まることで、カタリストを送り出す自治体にとってのメリットにも繋がっていくと考えています。働く人の人間らしい欲求に寄り添うスキームを取り入れることで、より多くの人がより長く働けるようになります。

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それでも出てくる質問に対する回答

それでも、「わざわざ優秀な職員を他所に貸し出すメリットがわからない。必要が無い」ということを言われることがあります。

そんな方に対する僕の本音は次の言葉です。「このご時世に人を週5日フルタイムで囲い込めるほど、報酬を提供できていますか?」

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この問いは非常に重要で、民間企業でさえフルタイムで人を囲い込み続けるのは難しくなっています。そもそも囲い込もうとすること自体がナンセンスという気もします。偉そうなことを言うつもりはありませんが、自治体人事を考えるときには意識的に立てたい問いです。

今後の展望

現在は一般社団法人の設立準備を進めているのと、一部自治体との実証実験に向けた調整を進めています。2021年には実証実験として、カタリスト事業を1サイクル回していきたいと思います。

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この事業に関する活動をしていて面白いのが、元公務員の方から「こんなスキームが現役の時に欲しかった!」という声を多くいただくことです。こういう声をいただくと、本稿で述べてきたような分析が的を外していなかったのかなとささやかな自信になります。

地方公務員がよりキャリアを楽しめる社会を目指して、引き続き頑張っていきます。

私のノートをお読みいただき、ありがとうございます!