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がん患者さんとのコミュニケーション


今週は、リピーターの患者さん以外に初回のカテの患者さんもお二人おられます。

初回のカテは特に大事で

1)がんに向かう血管の探索(事前に外来で造影CTから3Dで血管を作りある程度めぼしい血管をみつくろってます)

2)見つけた血管が本当にがんに関与しているかの確認
  これはIVR-CTの真骨頂で、血管造影機械しかもたない施設だとできない検査
  実際にカテを目的の血管に入れて
  そこから造影剤を流し
  狙っているところがちゃんと染まりあがるか
  逆に、抗がん剤やビーズを入れていけない臓器
  例えば脊髄にいれると麻痺が起こるし、ビーズが臓器をすり抜けたら 
  脳梗塞にもなりえます
  そういうリスク回避も含めて、治療の確実性をあげるために
  IVR-CTは必須です

3)がんは、どんな治療にも耐性化します。
  カテも繰り返していると、いつかは効果が落ちる。
  だから、一番はじめにできるだけがんを減量するように強い治療、特に塞栓
  の強度の話ですが、この調整をしたり
  がんが大き過ぎたら、その中でもどこが一番余命に直結するか考えて
  全てを狙わずまずは、一番重要なところに抗がん剤を集中して入れたりします
 そういう作戦、が結構大切で、
 結局、カテを10回以上できている患者さんたちは
 うまく抗がん剤の動注が反応しただけでなく、こちらの血管選択や治療強度調整
 がうまくいった、作戦勝ちなわけです。

4)がんを小さくすることだけを考えて最初に一番強い治療をするよりも
  その副作用でカテが数回しかできなくなることを回避し
  じんわりと回数かさねがら縮小を目指す場合もあります。
  こういった患者さんは、特に進行した症例が多いですね。
  結局、強い治療をしてがんにダメージがでても
  身体が治療の副作用から回復せず、臓器機能が戻らなければ
  次の治療ができない、待ってる間にすぐにがんは再燃する
  そういうこともありえます


といった、理由で、最初の治療は、先々の展開を考えて、行なっています。
ここは、経験値が大きいですね。
いかに、多くの患者を、長期間診てきたか、に依存しますので
「患者さんから多くを学び自分は育った」という先生がおられますが
僕もまさに、これです。


最後の砦ではない、とみなさんに話してますが
実際に僕の治療が最後となり、その後天国に旅立たれた方も多いのも事実です。

皆さん、ぎりぎりの、もうアップアップの状態で僕のところにこられたりします。
もう少し前に来ていただければ、もっとしっかりと治療させてもらえるのに・・
受診のタイミングって本当に難しいですね
(これに関しては、過去に何度もアメブロの方に書きましたので、そちらをご参照ください)


先ほど、乳がんになってから9年間、癌治療を頑張ってこられて
近隣の腫瘍内科の先生による全身薬物療法、そして時々僕がリリーフ的に肝転移のカテーテル治療をしてきて、本当にうまく経過できてきた若い女性の患者さんが、天国に旅立たれたと、先方の先生からご報告いただきました。
僕も彼女に10回以上カテを断続的に行い、その度に、奇跡やなあ、ほんまによく効いたなあと、お互い喜んで、肝転移の制御がついたらまたもとの病院で薬物療法をする、そんなことを繰り返し、戦友というか、友達というか、もういつも外来でも入院でも気さくにお互い会話をしてきた彼女。

2週間ほど前に、もう万策尽きたと、でも最後に僕にもう1手ないかと外来に来られました。たぶん、彼女も、僕がもう、カテはできないということを、予想していたと思います。正直に、もう限界だと伝えた時に、彼女はしっかりと納得した顔でうなづかれてました。

彼女の最後の希望は、お子さんの入学式に参加することでした。
僕も、まだ大丈夫、絶対にいけるから。
ただ、こうやってお話するのは最後になるかもしれない、だから本当によく頑張りました。5年以上も治療させてもらってありがとう。
と彼女に素直に伝えました。
お互い涙はなく、笑顔でお別れしましたが、
僕はきっと、入学式に参加できるものと信じ、祈ってました。

あれから数日で旅立たれてしまったこと、本当に悲しいです。

僕は、医療は接遇とは思っていません。
ホテルではありません、ちゃんと病気のことを理解していただき、治療を受けていただき、がん患者さんに長生きしてもらうところだと思っています。

余命について、必要な嘘を本人にしたことは何度かありますが
がん患者さんには、できるだけ素直に、言葉は選びながら、理解しやすい言葉で説明し、治療を選択するよう心がけています。
そうしていると、必然的に敬語が邪魔になり、お互いがちゃんと相手を、医者と患者、ではなく、命を預け預けられた関係、として意思の交換ができるような話し方をするようになります。

おそらく、僕は自分の患者さんたちに、人気があると思います。
そう言われたことが何度もあるから(笑)
真剣にがん治療に関わると、他の病気での患者さんとのコミュニケーションの仕方とどこか変わってきます。自然と。


だからかな、
僕は嘘は絶対にいいません。
そして、患者に1%もない期待をさせません。

もしかしたら完治するかもしれない
この病気を一度完治させたことがあるから、あなたも可能性がある
(がん患者さんの治療を何100人としていれば、奇跡的な良い結果の方は一定数でます。)

でも、実際の可能性はどうか?
がんの、病気の深刻さをちゃんと伝えず
カテだけできるように誘導し、結果がでなかったら放り出す。
そういうことをクリニックは平気でします。

カテをするなら、近隣なら最期まで自分が診る覚悟で、
遠方なら、カテの後をちゃんとお願いできるように自分と先方の主治医との関係を構築して、カテをやっています。
だから、先方には必要な電話や診療情報の提供をまめにしています。


コミュニケーション。 
がん治療では、いろんな場面で他の病気よりも大切だと思っています。


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