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籠の鳥


かたちを失っていく。幸せに犯されていく。感覚が麻痺して、もう、生きているかも分からない。どろどろした思いが恋しい。泥まみれのあなたはうつくしい。見えるようになったこの目はなにも見つめていない。からっぽだよ、と笑う人形。飼い慣らすつもりで飼い殺された日常を恨まないことが大人なのか。非日常に酔えなくなったとき、青春は終わる。つかの間の夢を求めて、アルコールは飲まれる。泡立つ日常に歓喜して、溺れるフリをする、その姿を見つめる醒めたまなざし。人形のひとみはまっすぐに胸を貫いて、なにかを磔にする。殺された思いはなかったものではなく、忘れた思い出も沈んでいるだけ。わかっている。失われるものなどなにもなく、ただ、なにも持っていなかったと知るだけ。傷はいつまでも血を流していて、喉を潤す泉となる、その場所を覚えているか。盲目ならば見えるだろう。幸せは籠の中、翼を切り揃えられて、透明な声で啼く。

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