見出し画像

連弾


ピアノの弾き方が似ていた。
何も足りないものなんて無いお嬢様のはずなのに、
どうしてそんなに痛々しく叫んでいるんだろう。

それは僕の渇きと似ていた。
潤してやろうか、なんて殊勝なことは考えなかった。
僕達はライバルとして競い合い、血を流し合った。

求めるものに気付きながら、僕はそれを無視していた。
彼女もそれを無視した。怒っていたからかもしれない。
負けを認めるのが怖かった僕を彼女は断罪し、僕は追放されてひとりになった。

ひとりで痛みに耐えるのは苦しかった。
死んでもよいと思って手首を切ったけれど、浅くしか切れなかった。
彼女ならばもっと深く切ってくれるだろうかと、浅ましく考えた。

僕は彼女に弾劾されるために罪を重ねた。
楽譜を破り捨て、彼女の嗚咽や怒号を楽しむようになった。
ピアノよりもっと直裁的に伝わってくる彼女の声は、僕の心を震わせた。

彼女を引き摺り下ろしたいという気持ちと、
僕と同じようになって欲しくないという気持ちは、
心地良い不協和音を奏でている。

ただ、ひとりじゃないのが嬉しかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?