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心臓

心臓を握られているから、逃げられないの。ちょっと困った顔をして笑った、きみが本当は困っていないこと、黙っててあげる。その代わりにキスをして、毒を少し飲ませてやった。毒は血液に溶け込んで、きみの全身をめぐり支配する。だから心臓が早鐘を打っているの、知ってるよ。もうひとつ心臓があることも知っている。捥ぎ取って食べてあげようか、いや熟れるまで放っておこう。じくじく痛むでしょ。その表情が素敵だね。でもね、だから嫌いだよ。思い通りになるなんて。馬鹿っぽくて笑えるね。僕もきみも欲しいものは違うのに。きみが欲しいと嘯いて、ほら落ちた、真っ赤な実。実はあんまり美味しくない。わかってる、欲しいのは、あの日の、あのひとの心臓。復讐してるんだ、たぶん。証明したいんだ、本物なんてないって。僕の心臓は誰にもあげない。奪えないよ、たくさんあるから。愛は心臓を交換すること。知ってる、愛なんて知らない。

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