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愛してるとは言っていない


三千世界の

烏を殺し

ぬしと朝寝が

してみたい

(都々逸/高杉晋作)



「愛してる」って言ったことありますか?
愛してるは「I love you」の翻訳語で、もともと日本語にはない言い方なので、言いにくいですよね。
日本語にないということは、日本人にはない概念なんじゃないでしょうか。
「私はあなたを愛しています」って、よくよく考えると抽象的で何を説明しているのかよくわかりません。

日本人はどんな言葉で気持ちを表してきたのでしょうか。
古今和歌集〔905(延喜5)年勅命勅撰和歌集〕の恋歌から拾ってみましょう。

恋歌一
476

右近のむまばのひをりの日、むかひにたてたりける車の下簾より、女の顔のほのかに見えければ、よむでつかはしける

在原なりひらの朝臣

見ずもあらず見もせぬ人の恋しくは  あやなくけふやながめくらさん

騎射の式の日に、車の簾越しに見えたか見えないかくらいの女の顔に恋して、今日は物思いに沈んでくらすことになるだろうか。つらい。という気持ち

恋歌一
479

人の花つみしける所にまかりて、そこなりける人のもとに、のちによみてつかはしける

つらゆき

山ざくら霞のまより  ほのかにも見てし人こそ恋しかりけれ

「花つみ」は仏に供えるためのもの。山桜を霞のすきまからちらっと見るように、ちらっと見たあなたが恋しいという気持ち

恋歌一
488

わが恋はむなしき空にみちぬらし  思ひやれども行くかたもなし

虚空に思いを放ってみたけど行くあてもないからどんより溜まってる気持ち

恋歌ニ
555

素性法師

秋風の身にさむければ  つれもなき人をぞ頼む  暮るゝ夜ごとに

この寒さに共寝の暖かさを思い出して、ひょっと訪ねてくれはしないか、という気持ち

恋歌三
645

業平朝臣の伊勢の国にまかりたりける時、斎宮なりける人に、いとみそかにあひて、又の朝に、人やるすべなくて、思ひをりけるあひだに、女のもとよりおこせたりける

よみ人しらず

君やこし我やゆきけん  おもほえず  夢かうつゝか  ねてかさめてか


646

返し

なりひらの朝臣

かきくらす心のやみにまどひにき  ゆめうつゝとは世人さだめよ

お目にかかったのは夢かうつつか……惑う心は闇。という気持ち。

恋歌四
685

ふかやぶ

心をぞわりなき物と思ひぬる  見るものからや恋しかるべき

心とはむちゃくちゃなものだ。相会っている時恋しさはないはずなのにという気持ち。

恋歌五
760

あひ見ねば恋こそまされ  みなせ川なにに深めて思ひそめけむ

浅いどころか水もない水無瀬川みたいな男をなんで深い心で…という気持ち




千年以上前の言葉とは思えない、現代と変わらず悩まされる恋心が伝わってきます。
「愛してる」なんて薄っぺらに感じます。

大河ドラマ「光る君へ」で注目されている和歌、古文に親しみのない方もこの機会に読んでみてはいかがでしょうか。

「古今和歌集」「新古今和歌集」岩波文庫



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