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8月6日のあなたへ−日御碕海岸

2017年、島根県出雲市を一人で旅した時に、不思議な出会いがありました。
天照大御神と素戔男尊を祀る日御碕神社。近くの山には月読尊が祀られており、3貴神が程近い距離にいるこのあたりは古事記好きにはたまらないスポット。

海岸に向かうタクシーでは運転手さんが、「このあたりはなんにもないでしょう。でもね、空と海の色がいつも同じことは自慢だよ」とおっしゃっていました。

白く美しい灯台がある日御碕海岸。私は登らずにでこぼことした海岸沿いをしばらく歩いて、市街地に戻るためにバスを待っていました。
すると、真っ白い服を着たかなり高齢の女性がベンチに腰かけていて、「お一人ですか?」と声をかけてくれました。東京から一人で来たことなど挨拶をすると、その方がゆっくりと語り始めました。

あの灯台でね、昨日若い女性の方が体調を崩されたみたいで上の方で倒れてしまったみたいなの。救急車が来たんだけど、細い階段で上り下りが大変だから随分と苦労していたみたいね。

私はこの海岸で長いこと民宿をやっていたんだけど、何年か前にたたんでね、たまに昔のお客さんが顔を見せてくれるのが嬉しいのよね。

子どもの頃は広島の呉市に寄宿していて、私はそこで被曝したんだけど、お灸が効くからって、母が有名なお灸の先生の元に私をずっと通わせてくれて、きっとそのおかげで今もこうして元気でいるのだと思うの。

途中、どんな顔をしたらいいかわからず、うなずくばかりになっていたのですが、おばあさんは再び口を開きました。

あの灯台でね、昨日若い女性の方が体調を崩されたみたいで上の方で倒れてしまったみたいなの。救急車が来たんだけど、細い階段で上り下りが大変だから随分と苦労していたみたいね。

ご高齢だし、もう一度繰り返すこともあるよねと静かに聞いていると、帰りのバスが見えたので、「貴重なお話をありがとうございました。お元気で」と私は声をかけました。

今日は妹が遊びにくる日で、ここで待っていたのよ、あのバスだと思う。

そのバスに妹さんらしき方は乗っていませんでした。おばあさんはスッと立ち上って歩き出し、気がつくといなくなっていました。

それはその日最後のバスでした。
妹さんが来るのは本当にその日だったのか、灯台で若い女性が倒れたのは昨日のことだったのか、そもそもあの女性は...。

もう一度会いたい。もう一度。

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