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政治改革はどこから始まる③あまりに危うい日本のDX事情と政治の役割

地方自治体のDX施策の現状

前回(「SNS社会が変える!? カネのかかる選挙と議員に必要なスペック」)はネットの普及が政治に与える「プラス」面について書いたが、今回は今後、政治が取り組まなければならない、ネットの進展に伴う「リスク」について述べたい。

ここ数年、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が注目されている。言うまでもなくDXとは、ペーパーレスや業務のデジタル化といった“周回遅れ”の話ではない。事業の構造変革を含んだもので、立ち遅れると淘汰されるのは時間の問題だ。「脱はんこ」なんて悠長なことを言っている場合ではないのだ。

しかし、地方自治体のDX施策を見る限り、芯を食ったものはまだまだ少ない。

従来あったシステム推進室が兼務・拡張する形でCIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)を設置し、DXとは程遠い上述したような“デジタル化”を進めているに過ぎない。しかも、行政内部の業務効率を上げるための施策(=守りのDX)と、市民サービス向上のためのDX(=攻めのDX)の区別の意識が薄いのだ。

改革派首長が進める攻めのDX市民版

そんななか、情報感度が高く、官民連携が進んでいる改革派首長の地方自治体では、攻めのDX市民版が着々と進んでいる。

よく知られているところでは、対象飲食店でPayPay支払いをすると20%ポイントバックされるような企画がある。使い勝手も良いので、かなりの自治体が取り組んだが、問題はITリテラシーの低い層や高齢者に恩恵が少ない点。本当に手を差し伸べたい社会的弱者に支援策が届かないケースも多かった。

他にも、いじめ相談にLINEを活用したり、保育所探しのアプリやウーバーのようなタクシー相乗りサービス、スタディサプリのような教育アプリ、SNS上の投稿をサイバーパトロールで発見する取り組みなど、行政課題を解決するアプリが次々と生まれている。

こうした流れを受け、各家庭にタブレットを配布したり、高齢者に使い方指南をしたり、通信量の費用を負担したりする自治体も登場しつつある。

「自分はデジタルができなくても、残りの人生を逃げ切れる」という60歳前後の人もいるが、否が応でもDXは進み、デジタルスキルがないと損をする社会に移行していく。逃げずに取り組んだ方が幸福度は増すのは確実だ。

デジタル化のなか、心配な日本企業の先行き

一方で、日本企業のDXはどのくらい進んでいるのだろうか。

GAFAMやBATがデジタル社会を席巻して、10年以上が経とうとしている。今やトヨタの敵はGAFAM、ユニクロの敵はAmazon。そしてパナソニックは、製造業からソフト産業への転換を宣言している。

他の業界にとってもGAFAMは対岸の火事ではない。アメリカのネット広告はGoogleとFacebookが7割を占め、全世界の広告の25%を占めている。地図情報に至っては、ほぼ100%をGoogleが独占する。日本では、かつては旅行はじゃらんや楽天トラベル、求人ならリクナビ、マイナビ、不動産はSUUMOやHOMES、飲食店は食べログ、ぐるなびが市場を牽引していたが、その分野ですらGoogleやインスタグラムによる直接検索がシェアを奪っている。

テレビや映画業界も危ない。日本のテレビ局の番組制作費は700億円から1000億円程度だが、NetflixとAmazonプライムの2社を合わせると1兆円にもなる。昨今のアカデミー賞受賞作品にNetflix作品が何作もノミネートされているのを見ると、その成果は明らかだ。若い層が地上波を見ずに、「テレビの電源を入れる=Netflixを即観る」という視聴習慣を聞くと、Netflix社長が「2030年に地上波は無くなる」というのが大袈裟に思えなくなる。
 
アメリカでは、Amazonが参入し、倒産に追い込まれた企業群が山ほどあり、進出するというだけで株価が下がる現象まで起きた。さらにAmazonは売れ筋データを活かし、食品、日用品、家電、ジュエリー、アパレルなどプライベートブランドを拡充し、メーカーとしての存在感も発揮しつつある。2022年8月には2300億円で「ルンバ」のアイロボットを買収しており、その勢いはますます加速するだろう。この他にも、不動産業界、保険業界、自動車、医療、旅行、ホテル、銀行などへの参入が予想され、あらゆる業界への影響は必至である。

その怪物アマゾンの年間R&D費は約3兆円。国内トップのトヨタが1兆円だから、デジタルの先行きはとても心配だ。
 
時価総額、収益力ともに世界のトップを走るGAFAMは、もちろん給与もバカ高い。アマゾンの初任給は35万4000円、マイクロソフトの初任給は51万7000円、優秀なエンジニアならいきなり年収1000万円というケースもある。時価総額、収益力ともに世界のトップを走る企業がこうして日本の優秀な人材までも根こそぎ引き抜いていくと、もはや日本企業は太刀打ちできないのではないだろうか。
 
ご存知のように、今アメリカで起きていることは、時間差で東京でも起きる可能性が高い。さらに遅れて地方都市で現実化する。一刻も早く地方企業のDXを進めないと、遠くない未来、GAFAMにあらゆる市場を獲られてしまいかねない。

地方自治体に必要な産業支援政策とは

今、地方自治体に必要なのは、企業誘致のための工場立地確保や補助金ではなく、企業のDXを推し進める産業支援政策である。そこで鍵を握るのは、デジタル環境、デジタルリテラシーの高い人材、自然エネルギー施策だ。
 
これまでは、公共インフラとして高速道路、港、ダム、市バスなどに税金を投入してきたが、令和の公共インフラはWi-Fi、データセンター、クラウドになってくる。こうしたデジタル環境が無償に近い形で提供される地域に、人も企業も呼び寄せられるだろう。既に都内はデータセンターの建設ラッシュで、世界の不動産マネーが集まってきている。
 
脱炭素化社会において、最も多くエネルギーを消費し、最も多くの温室効果ガスを排出しているのはICTインフラである。その割合はICT全体のカーボン・フットプリント(ライフサイクル中に排出する温室効果ガスをCO₂換算したもの)の70%を占め、その中でも大きな原因になっているのはデータセンターだ。
 
こうした状況を受け、GAFAM各社はいち早く、データセンターの電力を100%再生可能エネルギーで賄うと発表をしたが、日本で今後増設するデータセンターの電力も再生可能エネルギーで賄うことが求められるのは間違いない。

経済安全保障で極めて重要なクラウド問題

もうひとつ指摘しておきたいのは、クラウド問題である。

2021年、デジタル庁のクラウドにアマゾンとGoogleを採択したというニュースが飛び込んできた。デジタルインフラを外資系に依存していいのか?という危惧する声も多く聞かれる。
 
今年起こったKDDIの通信障害で多くの人の仕事や生活が混乱したことを考えると、クラウドに機能障害が起こったり、データセンターが止まったり、Wi-Fiがつながらなかったりという状態になると、日本社会の機能は簡単にストップするだろう。
 
実際、中国の公共クラウドサービスの順位は、アリババ、テンセント、バイドゥと中国企業が占める。日本はアマゾンとマイクロソフトの2社で全体の63%、Googleを含めると71%がアメリカ依存となっている。
 
近年、注目を集める経済安全保障だが、その定義は、国家の経済活動や国民生活に対する脅威を取り除き、一国の経済体制や社会生活の安定を維持するために、エネルギー・資源・食料などの安定供給を確保するための措置を講じること、とされている。
 
とすれば、対象は現在、政府が力を入れている半導体やエネルギーにとどまらない。デジタルインフラをどうやって国内企業で担保するかという視点も極めて重要になろう。

GAFAMに対抗できる国内企業の育成こそ

これは端末やネットサービスにも当てはまる。中国は早くからGoogleやアマゾンを締め出し、自国企業のアリババやバイドゥを育ててきた。アメリカも成長著しいファーウェイやTikTokを排除しようと躍起になっている。

日本はどうか。Google、YouTube、インスタグラム、ツイッターなど、SNSは海外企業が大半を占める。唯一の救いは、国内ナンバーワンの9200万ユーザーを誇るLINEをソフトバンクグループのヤフーが韓国企業から買収したことだ。
 
とはいえ、仮に来月からFacebookとインスタグラムが月額100円課金すれば、日本ユーザーは年間672億円支払うことになり、それがアメリカ企業の収入になる。「まるで税金じゃないか」。そんな心配をしていたら、テスラ経営者のイーロン・マスク氏がTwitterの新有料プランを月額8ドルにすると発表した。日本ユーザーがこの有料プランに全員乗り換えれば、Twitter社に年間6750億円の課金収入が税金のように自動徴収されることになる。
 
確かに、GAFAMのサービスは利便性が良く、価格も相対的に安く、品質も良い。しかし、個人情報は丸裸で、いざとなったら国民生活を止める力を持ち、税金のように利用料を支払い続ける。そんなサブスクを、私たちは何も考えずに使い続けて良いのだろうか。彼らに対抗できる国内企業を育て、万が一の場合は自国デジタルインフラとネットサービスで社会生活に支障を来たさないように準備をしておくべきである。
 
個別最適を続けていると、いつの間にか日本全体が蝕まれていく。これに歯止めをかけられるのは、もちろん政治の力しかないと私は思っている。

参考図書
リクルートOBのすごいまちづくり (世論社)

リクルートOBのすごいまちづくり2(CAPエンタテインメント)

議員という仕事(CAPエンタテインメント)

情報オープン・しがらみフリーの新勢力(CAPエンタテインメント)


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