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読書メモ「53歳の新人」(NHKアナウンサーの転職話)

「53歳の新人―NHKアナウンサーだった僕の転職」
内多勝康

国立成育医療研究センターが2016年に開設した「もみじの家」は、医療的ケア児を在宅ケアする家族を支援する施設。NHKアナウンサーが、その施設のハウスマネージャーに転職したときは新聞やニュースでだいぶ取り上げられたが、あれから6年もたっていた。いまはどうしているんだろう? と思い、本書を手にとった。(写真は「もみじの家」ホームページから借用)

直接的なきっかけは「外された」こと


内多さんといえば数々のニュース番組を担当されたアナウンサー。もともとはディレクター志望でNHKの採用試験を受けたそうで、自分で企画書を出して取材し、番組を作ることに生きがいを見出していたそうです。

しかし、50代手前で東京に戻ったときに提示された番組は「今日の料理」。時々回ってくる「クローズアップ現代」の代役を心の支えに、フライパンを振っていたそうです。
さらに、その代役も若手が務めることになり、自分は「外される年齢になったんだ」と実感したそうです。

定年まで「仕事」と「生きがい」を一緒にすることを断念

もともと内多さんはテレビに出たいと思ってNHKを受けたわけではないので、「本業(NHK)は残念な感じになりましたが、このまま定年まで行こう。今のまま、不平不満を言わずに従順に仕事をする。そして、オフの時は「福祉のおじさん」」となってバランスを保って最後までいこう。」と。

内多さんのような第一線で活躍した方も、そんなことを考えるんだぁと驚きました。実際に、内多さんはオフの日にフードバンクのボランティア活動に参加されていたそうです。

転機は飲み屋でのボヤキ

定年前の最後の転勤辞令が出た頃、ある福祉関係者と飲むことになり、いつものように軽く仕事の愚痴などぼやいていたそうです。
話題は、国立成育医療研究センターに医療的ケア児とその家族を支援する短期入所施設ができる話になり、そのハウスマネージャーを病院外から招きたい、それはいい話だね、と話しは続いたとき、その福祉関係者から「だったら、内多さんがハウスマネージャーになればいいんじゃない?」と言われたそうです。

そうそう、意外と転機って、こんな感じで来るんですよね。
内多さんは普段から「もうNHKやめてやろうかな」等と愚痴をいっていたそうで、その福祉関係者の方は「もしかしたら・・・」と思って、その話をふったのかもしれません。

実はパソコンが使えなかった内多さん

転職後に一番困ったことは、なんとパソコン。ワードは使えたが、エクセルとパワーポイントが使えず、会議資料がうまく作れず、すかすかの会議資料に上司から指導が入ったそうです。

40代に取得した資格が役立った

そろそろ東京に戻れるだろう・・・と3年頑張ったのに異動辞令が出ず、ふてくされたそうです。仕事は最低限のことはしない!と心に決めたものの、単身赴任で時間をもてあまし、何をしようか?と考えたときに「資格をとろう」と思ったそうです。選んだのは、前から気になっていた「社会福祉士」の資格でした。

「もみじの家」に転職したのは資格取得から何年もたってからでしたが、資格を持っていたことは採用には大きく関係していたと私は思います。

病院外の人材を入れたいとはいえ、素人では困る。
「社会福祉士」は容易に取得できる資格ではないですから、働きながら取得したのならば、福祉に思い入れのある人材であろう、そういう人なら招いてもいいのでは?と思われたのだと思います。

転職してよかったか?

答えはもちろんYES。
内多さんいわく、いまのハウスマネージャーの仕事は、NHK入局時にやりたかったディレクター職に似ているそうです。そして、NHKのときもいまも「誰のために仕事をしているのか?」ということを常に考えていることはブレておらず、それが仕事への満足感を得ているようです。
そもそもNHKでだんだんと活躍の場がなくなり誰のために仕事をしているのかわからなくなり、その状態が耐えられなくなり、転職を決意したのでしょう。

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50代に入り、だんだんと活躍の場から外されていくなか、転職すれば、みな内多さんのようなハッピーなセカンドキャリアがあるわけではないです。

転職した福祉の世界は、内多さんが長年関わってきた領域で、軽い気持ちからだったが公的資格も取得していた。経済的にも、家のローンも子どもの教育費負担もほぼ終わっていた。さらにいえば、転職先は国立成育医療研究センター。日本の小児医療のトップです。そこが先駆的な取り組みで開設した施設だったという点も大きいでしょう。

そんなことを差し引いたとしても、定年までの時間を指折り数えて日々過ごすよりも、セカンドキャリアに挑戦する人が増えれば、この閉塞感漂う日本が少し変わるんじゃないかと思います。

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