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感情のログをつけるin少年院

青年海外協力隊として
ベリーズに派遣されて11ヶ月。

私の担当するアートクラスでは
感情(エモーション)のログをつける
Emo-Log(エモログ)」という活動に約半年取り組んできた。対象は12歳から17歳までの少年院に収容されている男子女子生徒だ。

今日はこの活動について,
振り返りも兼ねてじっくり書きたいと思う。—————————————————————

エモログの始まり

ベリーズに限らずだが,少年院に送られる子どもの多くが「感情のコントロール」を課題とする場合が多い。

自分の感情をどう処理していいかわからず,やみくもに他人に感情をぶつけたり(逆に感情から目を背けたり)してしまう。

不適切に感情を処理した結果,人間関係が上手くいかなくなった経験を持つ子どもも少なくない。

ベリーズの少年院でアートのクラスを始めたころ,子どもたちの感情に毎日振り回されていた。前日やる気満々だった子でも翌日の授業では授業崩壊の中心人物なんてこともあったし。他の職員に怒られて溜まったイライラを,理不尽に私にぶつけてくることもあった。

おそらく、子どもたち自身も,自分の感情に振り回されていたのだろう。とにかく彼らの感情の波にのまれ、彼らとの関係に悩み続けた数ヶ月だったと記憶している。

「今日はどんな気持ちで来るんだろう?」「今日は何にいら立っているんだろう?」彼らの気持ちを黙って察する日々がしばらく続いた

でもある日ふと思ったのだ。
「直接聞いてしまえばいい!」と。

**日々いろんな感情を見せる彼らに「今日はどんな気持ちなの?」と聞いてみたくて始めたのが感情(エモーション)の記録(ログ)「エモログ」だった。 

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エモログの作り方

エモログ作りから
アートのクラスは毎回始まる。

真っ白なハートの紙の上に,好きな画材を使って「今の気持ち」を表現する。絵を描いてもいいし,ただ色を塗るだけでもいい。紙の裏には,日付・感情名・その理由を記載する。(文字が書けない子が多いので,このステップに結構苦戦する。)

使える画材は「クレヨン」「折り紙」「マーカー」「色鉛筆」の4種類。

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エモログを授業の始めにやる理由

エモログは,自分の感情と向き合う効果だけでなく,他の人に感情をシェアするという役割も担っている。

一人で抱えていた感情を私とシェアしたり,隣に座っている子にシェアすることで,周りが自分の今の状況を分かってくれているという安心感を得ているのかもしれない。

エモログなしで,その日の活動に入っていた頃とエモログで感情を表現してから,活動に入っている最近を比べると後者のほうが圧倒的に授業への取り組み姿勢がいい。

感情と向き合うだけでなく,”自分の抱える感情を他者に受け止めてもらうという役割”もエモログは果たしているのだ。

そのほかにも、授業の最初にエモログを行うことで授業を拒否する子どもが減った(活動当初は「参加したくない」とごねる子が続出していた)

「めんどくさい」「つまんない」と授業に来た際に口にする子どもには「その”つまんない”を表現してみて」「”めんどくさい”って書いていいよ」とエモログを作るよう促す。嫌々ながらもその感情を描いているうちに,不思議なもので徐々に授業に取り組む心の準備を整うのだ。

エモログを授業のはじめに行うことで,かなりクラス運営がしやすくなった。そして子ども自身も無理なく,クラスに臨めるようになったようである。

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感情名だけでなくワケも聞く

エモログを始めたころ,子どもが作る感情で圧倒的に多かったのが「angry(怒り)」だった。いつも何かに怒っているなあという印象だった。

アンガーマネジメントの世界では有名な話だけれど,「怒り」の感情は氷山の一角に例えられる。というのも人は「怒り」という感情だけを単品で持っていることはなく,怒りの感情の奥には「寂しさ」「不安」いろんな感情が隠れているからだ。

私は,その奥の感情を聞いてみたかった。なので,当初は感情名だけを記載していたエモログに「理由」も書き足してもらうことにした。「どうしてそう感じているの?」と聞くと「Because、、、、」そこで1度筆が止まる。そしてしばらく考えたのちに、理由を書き始める。

それはまさに「怒りの奥の感情」に目を向けている時間だ。

「angry」なぜなら「家族に会えないから」

「angry」なぜなら「学校に行きたいから」

Angryと書きながらも,寂しさや不安などが伝わってくる理由を書く子も多い。最近はAngry以外の感情も書く子どもが増えてきた。

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エモログが続いている訳

エモログを始めるにあたり心配していたのはいずれ飽きがくることだ。3回もやれば「また同じことをやるのか」という不満が出るのではないかと心配していた。こっちの投げかけは毎日同じ「How do you feel today?」。でも,子どもらは,意外にもアクティビティを気に入ってくれたようだった。

エモログを単発のアクティビティで終わらせないために大事にしていることは2つ

(1)エモログを大切に保管すること 
自分が一生懸命に作った作品が大切に保管されるということは嬉しいこと。子供たち以上にこのエモログを大切に扱うように心がけている

一人ひとりジップロックに入れて名前を書いて保管し,日付順につづってある。エモログの厚みが増していくごとに,エモログが大切なものになっていく感じもある。時々一緒に見返しては「この日は悲しくて泣いた日だ」「初めて作ったエモログが懐かしい」とアルバムをめくるように眺めている時間もまたいい時間だ。

(2)エモログの細かい変化に気づく 
「ちゃんと見ているよ」「関心があるよ」というサインを送る意味でも,エモログの小さな変化に目を配る

普段マーカーで色鮮やかにカラーリングしている子どもが,色鉛筆で薄く色を塗った日があったり,普段時間をかけて作っている子どもが5秒で制作を終えることもある(マーカーで点々を書いておしまいとか)。

それは,私に向けたメッセージかもしれないから注意深く見て,気づいたよということは伝えるようにしている(拙い英語だけれども)。

時には書かれている感情名とは違うメッセージを受け取る日もあって。ハッピーと書きながらも割れたハートが描かれている子もいたりする。さじ加減が非常に難しいのだけれど,話したくなさそうであれば,あまり詮索しすぎず,でもいつでも吐露できるようなそういう雰囲気を作ろうと努力している。

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感情に出会える時間を大切にあと1年

誕生日の日に家族が面会に来てくれず「Disappointed at my family (家族に失望した)」というエモログを作成した男の子。

いつもはカラフルな作品が多いが,マイナス感情の時は必ず黒を使い,理由は私が読めない暗号で書く女の子。

「気持ちはエモログで描くから,ぜっったいに直接聞かないで」という子。(言葉通り正直に理由と感情を書いてくれる。)

いろんな形で、「感情」を表現してくれる子どもたち。一緒にできるのはあと1年だけれど,大切にしていきたい時間のひとつ。この活動は最後まで続けたらいいなあ。そして,あばよくば,私が去ったあとにも形を変えて残していきたい。


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