見出し画像

音楽エッセー#14 雪の呼び名 〜音の冷たさ、温かさ。


「冬の寒い日に、空から白いものがチラチラ降ってきます。何が降ると言いますか?」


日本語の標準語で、雪は、[YUKI]ゆき。ユキ。と発する。
大気が格段と冷え込み、空はグレーの分厚い雪雲に覆われ、そのうち音もなく雪が降ってくる。ひとひらは白い綿毛のようで儚いけれど、しんしんと厚く降り積ってゆく。また雪は、結晶や氷柱(つらら)など、アナ雪のエルサのような、クリアで冷たく硬質な氷のイメージもある。
雪[YUKI]という言葉の響きの、ゆ[YU]の柔らかい響き、き[KI]の硬い響きは、雪のイメージがよく合うと感じる。

日本各地の方言によって、たくさんの異なる発音がある。


一方、雪[YUKI]には、標準語のほかに、日本各地の方言の違いによって、たくさんの異なる発音がある。

雪[YUGI](東北地方、青森県・秋田県・岩手県・宮城県・山形県)
雪[YUGI][YUG(ŋ)I](北海道)
雪[EKI](新潟県〜富山県・日本海側)(島根県北部・日本海側)(西ノ島町)(栃木県)
雪[IGI](岩手県)(茨城県)
雪[IKI](岐阜県)
雪[EGI](長野県北部)
雪[YOKI](新潟県)
雪[ZYUGI](宮城県・福島県)
雪[YUCI](沖縄県)

ひらがな表記に直すと、「ゆぎ」「ゆんぎ」「えき」「いぎ」「いき」「えぎ」「よき」「じゅぎ」「ゆち」。

「ぎ」[GI]、「じゅ」[ZYU]の濁音や、「ち」[CI]にギョッとするが、通常の「雪」と同様に、語尾を上げるような抑揚をつけて発音すれば、次第に「雪」[YUKI]という音が聞こえてくる。

雪の呼び名のいろいろな響き方。


YUGI… YUGI… YUGI… YUGI… YUGI……。……。……。……。…………。
濁音の「ぎ」、響く小さい母音の「ぃ」、濁った音なのに、なんだか柔らかい心地よい響きだ。口腔だけではなく鼻腔まで響くからだろうか。

EKI…  EKI…  EKI…  EKI…  EKI   ……。……。……。……。…………。
この[E]の音は、[e]と[u]の中間の音が響いているように聞こえる。舌の位置を口腔の中央あたりにして発するのではないか。曖昧な母音は温かい響きがする。

IKI…  IKI…  IKI…  IKI…  IKI   ……。……。……。……。…………。
この[I]の音は、[i]と[u]の中間の音が響いているように聞こえる。
北国は寒さのために発する単語を、短く切り詰めると聞くが、[IKI]も、言葉全体の響く時間が、とても短い。

YOKI…  YOKI…  YOKI…  YOKI…  YOKI ……。……。……。……。……。
この[O]の音は、[o]と[u]の中間の音が響いているように聞こえる。口と唇を開かないように、舌と上顎の空間を狭くして発するのではないか。

ZYUGI…  ZYUGI…  ZYUGI…  ZYUGI…  ZYUGI …。……。………。
複雑な響きだ!未知の音なので想像しにくいけれど、トトロのカンタのおばあちゃん(北林谷栄さん)が発音していると想像すると、「雪」という音になって聞こえてくる気がする(笑)

YUCI…  YUCI…  YUCI…  YUCI…  YUCI… 。 。。
「ki」は無声軟口蓋破裂音、「chi」は無声歯茎破裂音、両方とも破裂音だ。
「パキッ!」の「キッ」のような、クリアーに硬く破裂するのではなく、口の中でこっそりと小さく「…チッ…」と破裂する。これもカンタのおばあちゃんが連想される(笑)

雪[YOKI] ふる。  ヨキ フル。

今回、童謡「雪」カルミナ・アレンジでは、新潟地方の方言の雪[YOKI]をあしらった。

聴く方は、曲の途中で突然、「ヨキ」「ヨキ」「ヨキ」「ヨキ」と歌が始まって、きっと「一体何が始まった!?」と驚かれるだろう。でも続く「降る」と組み合わさると、「雪が降る」という一文が形成されて、そこで初めて「ヨキ」の音が「雪」の意味だったのだと解ることになる。(と期待!)

ちなみに雪は英語だとsnow。[s]の響きが、なんとなく冷んやりした響きのようにも感じる。外国でも言語は違っても雪を表す言葉は[s]から始まる。

英国 snow
アイルランド sneachta
ノルウェ snø
スウェーデン snö
ラトビア sniegs
ポーランド śnieg
チェコ sníh
ドイツ schnee
スロベニア sneg
フランス neige おっ!これは違う響きだ!外国の国ごとの言語の相違性や類似性も興味深いが、本当に奥が深いのでまたいつか別の時に。

雪は春の響き!?


童謡のカルミナ・アレンジをするとき、童謡の歌詞を改めて吟味することになる。曲のテーマを易しい言葉で簡潔に伝える歌詞は、一文字一文字に優しく温かい響きを感じる。

メロディのアレンジと併せて、歌詞の言葉や、時にはオノマトペを何度も口の中で繰り返し唱えながら、そこからアレンジの素材の音響を見つけていくのが楽しい。

また今回はオリジナルの1番と2番の歌詞に加えて、新しく3番の歌詞を創作した。内容は、冬の雪のイメージから、聞き手の心をどこか遠いところへ連んでいくようなものにした。どこに辿り着くかは、ぜひ鑑賞していただき「ほほう…!」と新鮮な驚きを味わっていただけたらと思っている。

次回作も、原曲のテーマがよく伝わり、かつ新鮮な聴き心地で響くようなアレンジをしたい。

どんなアレンジが出来るのか?今後もご期待ください!

【新しい童謡チャンネル】〜のんびり更新中〜
https://youtu.be/evVwXNSLg0k




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?