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▼今、皆に知ってほしい女性

キャロル・フークス

 彼女は、超長距離を得意とするプロのトライアスロンアスリート、トレイルランナー。また生来の登山家でもあり、ネパールにおいて非常に高度な技術が要求されるアマ・ダブラム(6,812m)の単独登頂、マナスル(8,163m)の登頂を成功させている。

 彼女にトレイルランと登山を生活の中心に置く理由を尋ねると、彼女は笑顔で答えてくれた。

「自然に囲まれた山中の静寂は、新しい自分を発見させてくれる。また、限界に挑み、自己がどこまで到達できるのかを教えてくれる大切な場所でもあるわ」

 彼女が生まれ育った場所は、山に登るのが必須の環境だったようだ。登山は、彼女の人生において無くてはならないものであり、彼女の人生の中において常に身近に存在してきた。ロッククライミング、スキッピングなどあらゆる山岳スポーツも経験してきた。自然の山々は人間の精神力を鍛え、真っすぐで献身的な人格を育てるのにも役立つという。

「子供のころに観たクライマーの姿に感銘を受けたのも大きな理由ね。彼らはヒーローであり、アイドルだった」

 特にラインホルト・メスナーの伝記、ドキュメンタリーには感銘を受けたようだ。その証拠に彼が成し遂げた人類史上初の8000メート峰14座の無酸素登頂は、彼女の登山における目標にもなっている。これを達成すれば、フランス人初の偉業となる。”〇〇初”や”女性初”といった冠は、アスリートにとって勲章にもなるが、それについても尋ねてみた。

「そういったものは、あくまでもボーナスだと思っているわ。付加価値にはなるとおもうけれど、誰かがやったことだからやらないってわけではない。目標の達成はあくまでも自己満足だから」


▼彼女が企てる驚くべき計画

 8000m峰クラスの登山には莫大な時間とお金が必要となる。それは彼女を悩ませる大きな障害となっている。次のプロジェクトであるエベレスト登頂は、ヒマラヤにおける最終目標であり、彼女の登山人生において最も耐久力を要するチャレンジとなる。

「標高5,500m以上の極限の状態の中45日間生存するためには、肉体強化や高地順応などたくさんの障壁を乗り越えなければなりません。エベレスト登頂は、身体能力だけの問題ではなく、天候、安全面の課題、雪崩や落石の危険など様々な外部要因が大きく関わってきます。それでも、挑戦する価値があります。私は、より難しいことを学び、できるだけ難しいことに挑戦して行きたい。たとえ山頂に届かなくても、それは決して失敗ではなく、自己探求における貴重な経験となるはずです」

 彼女に、どのぐらいの期間で達成したいのか尋ねてみた。

「ベストは尽くします。予算の問題もあるけれど、できれば5~7年以内に達成できるといいのだけど」

 彼女にとって目標とは”達成するもの”であり、”実行するもの”だという。やると決めたのだから、まずはそれに沿って動きだす。先に失敗するリスクを考えるのは、意味がない行為なのだ。なぜなら彼女の人生において、失敗は最高の教師なのだから。


▼理由を探しても、それはおそらく見つからない

「そこに山があるから」
 これは、イギリスの登山家:ジョージ・マロリーのあまりに有名な言葉である。当時の記者たちは、危険な冒険に挑む彼の心情、理由を求めて質問したのだろう。

 記者たちの気持ちは痛いほどわかる。これだけ大変なことを成し遂げようとするのだから、その挑戦には明確な理由があるはずだと……。同じように彼女に質問をしてみると、少し困ったような表情を見せた。

「難しい質問ですね。合理的な方法で説明するのはとても難しい。だって、好きであるとか、成し遂げたいっていうパッションのようなものだから」

 彼女の言葉を聞いて、ハッとさせられた。当時の記者もそうだったのだろうが、人は理解できないものに対して、どうしても理由を求めてしまう。考えてみれば、人を好きになった理由や食べ物の好みを説明しろと言われても、多くの人は困るだろう。そこにはロジカルなものが存在する必要なんてないのだから。

▼キャロルの不思議な旅

 アスリートというものは、少なからずエゴイスティックな部分を持っている。時にはそのエゴが、そのアスリートのスタイルとなっていく。もしかしたら、耐久力を競うスポーツで鍛錬している人にとって最も難しいトレーニングは、自分のエゴを抑制することなのかもしれない。

 彼ら彼女らが描いているのは、他の誰かの物語ではなく、あくまで自分自身が主人公の物語なのである。もちろん、その物語は決して平たんなものではないが、きっとたくさんの「WAO!」で溢れていることだろう。

 個人的には彼女の挑戦を応援することで、キャロル自身が描く、壮大なワンダーランドへの冒険を楽しみたいと考えている。願わくば、読んでくれた人の数パーセントでも、同じ気持ちになってくれると嬉しいのだが。

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キャロル・フークスオフィシャルFacebookページ 
https://www.facebook.com/CaroleFuchsOfficial/ 

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