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[読書の記録] カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(2013.04.17読了)

修士時代の後輩が科学コミュニケーション系の書籍展示で使った本だとかで、たまたま譲り受けた。


カズオイシグロ「わたしを離さないで」(早川書房)

タイトルはさすがに耳にしたことがあった。

日本生まれイギリス育ちの作家カズオ・イシグロによる長編小説である。
キャリーマリガンやキーラナイトレイらの出演で映画化もされ、それなりに話題になった作品だと思う。

けっこう長いんだけど、誰しもが作品世界の旅を楽しめる良作ではないだろうか。
個人的に、こういうダークな設定の話は好きだ。

舞台は現代の英国である。
とはいえパラレルワールドのような感じで、われわれが生きる世界とは少し違う歴史をたどった世界ということになっている。だからこの小説はSFにカテゴライズされる。
物語の舞台となる世界では、移植用の臓器を生産することを目的に、クローン人間を作り、育てる制度が整えられている。
主人公の女性はそんなクローン人間のひとりである。

彼女は臓器提供者を育てる専用の寄宿学校で、同じく未来の臓器提供者である友人たちと恙無い日々を送って行く。そこでは、われわれも想像できるごくごく普通の友情物語や恋愛物語が展開される。
しかしやがて彼女らは成人し、予め定められた過酷な運命をそれぞれにたどることになる。。。

若くして命を捧げるためだけに生まれてきた彼女らの人間関係は、表面上はありふれたもののようでありつつ、それでも否応無く切ない。

トンデモ設定といえばトンデモ設定なのだけど、この奇妙な世界観をもって圧倒的な迫力でわれわれに提示されるのは、やはり青春の、否、人生の、一回性だ。(その意味でベンジャミンバトンにも似た読後感)


結局、人生の価値は何をどれだけ得るかで測られるものではない。
何をどれだけ大切な人と分かち合ったか、で測られるのだと思う。


明日突然終わるかもしれない人生である。どっちにしても今過ごすこの一瞬一瞬は、あとでどれだけ足掻いても戻ってこない。
友達や家族との限られた時間を大切にしていこうと、思いました。



ところで物語では、タイトルでもある"Never Let Me Go(私を離さないで)"という歌が録音されたカセットテープがキーアイテムのひとつになっている。
ジュディ・ブリッジウォーターという架空の歌手によって歌われている設定なのだけど、もちろん小説なので音が聞こえない。ということでこのサウンドについては読者の想像に任されている部分でもある。
個人的にはコリーヌ・ベイリー・レイのようなジャズ寄りR&Bシンガーのオーガニックな歌唱によるゆったりとしたブルーズのイメージで予想していた。



ただ、映画だとちゃんとこの曲を主人公が聴くシーンでは音が流れる(誰が歌っているのだろうか)。
ということで主にこの曲を聴くために映画版も見たのだが、予想はあたらずとも遠からずで、ハスキーボイスなジャズシンガーが歌うスローシャッフルのバラッドだった。進行がGeorgia On My Mindと似ている。


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