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叱らないのは残酷?厳しい教育を実践する3つの条件


X(旧Twitter)で少し前に話題になっていたこの記事。思うところがあったのでnoteに書いてみます。

一言で言うとイチロー氏のコメントを引用する形で、大人世代が若い世代への教育について物申すという記事になっています。学校や会社で「叱る大人」がいなくなっている現代、厳しさに耐えられるタフな人とそうでない人では格差が生まれてしまう。本当にそれでいいの?と警鐘を鳴らすような内容でした。

以下引用をいくつか。

若者側の視点からすれば、ひと昔前まで横行していた、時代遅れの「昭和」な香り漂う暴力的な規律や統制を受けなくて済むことにほかならず、社会生活や社会活動の快適性が高まっているとはいえる。しかしそれは「自分で自分を厳しくコントロールできない者は(だれからも指導されたり矯正されたりすることなく)そのまま放置される。

教育者・指導者側も、まず「自分で自分を厳しく律することができる人」「厳しいフィードバックに耐えられるタフネスがありそうな人」を慎重に選んで注力するようになっている。そうでない人には、心が折れて辞められたりすることがないよう、腫れもの扱いしながら敬遠する。

結果的に、自分に厳しくできない人や、厳しいフィードバックに耐えられない人は、表面的には学校でも部活でも会社でもどこでもそれなりに「やさしく」遇されやすくなって快適な日々を送ることができるが、しかしタフな人びとに経験値や成長度で大きな差をつけられてしまうし、だれにもそれを埋め合わせてもらえない。格差が開いてしまったあとから「自分がこうなったのは、だれも厳しく教えてくれなかったせいだ」などと申し立てることなどもちろんできない。自分でちゃんとしなかったせいでしょ? とあっさり切り捨てられることもままある。

「厳しさ」あるいは「厳しい」教育ということは一体どういうものでしょうか。大声をあげて相手を律し、行動を促すことでしょうか。叱り飛ばし、相手に変わるよう促すことでしょうか。

私が経験した習い事でのエピソードを基に考えてみます。


私が中高生の時に師事していたピアノの先生はとても厳しい人でした。できていないところはできるまでひたすらレッスン中に弾かされ、課される基礎練習も沢山。1回のレッスンが1小節の部分練習で終わることもありました。それまで習っていた先生とは違って本当に厳しかった。
でも、私は先生の怒ったところは1回も見たことがありません。叱られたこともありません。いつもニコニコ穏やかな笑顔でさらりと「じゃあもう1回弾いてね」と言われるだけ。できないところはできるまで懇切丁寧に指や体の使い方を教えてくれました。
そのおかげもあって演奏が見違えてよくなり難曲が弾けるようになり、ますますピアノを弾くことが楽しくなりました。大人になった今でもあの上達の快感が忘れられず、毎日基礎練習を積み重ねています。

そして時は流れ、大人になって下の記事を読んだとき、あの頃のピアノの先生の厳しさにどんな意味があったのか具体的に理解することができました。

エディジョーンズ:問題となるのは、課題なき長時間トレーニングです。今までお話ししてきたように、日本の指導者は長時間拘束することで、選手たちの集中力を奪っているのです。トレーニングでフォーカスするべき点を伝え、ケガを避けるために適切な休養を与えながら、練習の密度を高めていく。チームとしての課題をクリアするためには、それなりの時間は必要になります。
(中略)
単調な練習では選手たちも飽きます。練習を工夫する創造性もコーチには求められます。

上記事より引用


私の課された厳しい練習を振り返ると、それらは必ず以下の条件にあてはまっていました。 

  1. 心身のどちらかに一定の負荷がかかること

  2. 練習の目標設定がなされていて、ステップが明確であり、共有されていること

  3. 上手くなりたいという内発的動機があること

冒頭のイチロー氏の言葉を引用した記事で表現される厳しさは①のみを表していると感じました。一方で学習者が適切に成長するためには②③が欠かせません。しかももっと大切なのは①の負荷は本人が乗り越えられるキャパの範囲内でなければならないということです。その見極めも教育者の範疇です。そしてこの3つが揃った課題こそが厳しくも成長を伴うものになります。

自身の厳しさが相手に負荷をかけているだけなのか、それとも相手の内発的動機を引き出し、目標を共有しているかを判断し、内省できる指導者こそが本当の「厳しい」教育者です。ただダメな点を叱り飛ばすだけの人は「怒っている」教育者です。厳しいつもりになって相手にダメージを与えてるだけでは相手の成長は決して望めません。

また、職業が教育者でなくとも、親子、上司部下、先輩後輩など多くの関係の中でこの3つの条件は有用だと思います。相手に成長を期待するあまり叱ってしまう、よくあるシチュエーションですが、その厳しさは本当に相手の成長につながるのか。この3つの条件がカギとなるはずです。


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