Casa Del Mar

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1985年生。映画レビューたまにエッセイ。 Twitter⇨novemberist7614 フォロー,DMお気軽に。

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    映画を見ても忘れちゃうので記録。ただのひとりごとです。

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花束と水晶体(2023.12.31)

2023年が終わろうとしている。「退院した」と前回のnote(「EYEはPOWERだよ」)に書いた直後、再入院となった。検査の結果、あまり経過が順調でなかったからだ。右目を開けると水の中にいるようなぼんやりとした感じがあったけど、それでも光を感じることはできていたから治るのを待っていればいいと思っていた私はなかなか落ち込んだ。なにより再手術である。 「思ったより水が溜まっていてこのままだと見えるようになるまで半年以上かかりますね」とドクターが言った。水中で目を開けているよう

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    • 165.不思議の国の数学者(2022)

      数学をテーマにした洋画と言えば『奇蹟がくれた数式』や『ビューティフル・マインド』,『博士の愛した数式』などが挙げられるが,その中でも『グッドウィル・ハンティング』(1997)は多くの人に知られているのではないだろうか。本作のプロットはそれにやや似ていて,学歴社会である韓国の進学校で数学ができずに落ちぶれているハン・ジウ(キム・ドンフィ)と,脱北した天才数学者イ・ハクソン(チェ・ミンシク)が交流していく物語である。自由を求めて脱北し,南で警備員として働くハクソンはヒョンなことか

      • EYEはPOWERだよ(2023.12.16)

        「愛はパワーだよ」というなんともメロドラマ的で歯の浮くような科白を聞いたのはもちろんドラマの中である。当該ドラマ『to Heart〜恋して死にたい〜』(以下『to Heart』)は1999年に放送されたTBS系のドラマであり、当時中学生だった私はそれを毎週楽しみに見たものだった。内容はほとんど覚えていないが、ノストラダムスの予言が真実味を帯びていた世紀末、世界滅亡前に恋して死にたいと思っている三浦透子(深田恭子)が、ボクサーである時枝ユウジ(堂本剛)に恋をし、ストーカー的アプ

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        • 164.カモン カモン(2021)

          全編を通してモノクロである。しかし,モノクロが色づいて見えるほど本作は美しいショットに溢れている。見えなければ見えないほど,観客は想像力を刺激される。映画と観客はそうやって蜜月関係を築いてきた。独身男性であるジョニー(ホアキン・フェニックス)が,甥ジェシー(ウッディ・ノーマン)を預かり,2人でNYで数日,生活するというのが本作の骨子であるが,ジョニーがインタビュアーという設定から,作品内にはドキュメンタリーのような雰囲気が漂っている。作中でジョニーは一般人に,そして子どもたち

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        花束と水晶体(2023.12.31)

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        記事

          163.ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE(2023)

          トム・クルーズはいつまでも若い。『トップガン マーヴェリック』(2022)にも驚かされたが,今作においてもまだまだ俳優人生の現役だという姿を見せてくれる。スタントを使わず本人自ら挑んだ崖からのダイブシーンをはじめ,CGを極力使わないアクションシーンは観客の度肝を抜いた。前編・後編と分かれるのは「ミッション:インポッシブル」シリーズにおいては初めてのことであるが,広大なスケールで撮るに値する作品にしたいという制作側の情熱が伝わってくる。164分という尺でありながら,秀逸なプロッ

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          162.さかなのこ(2022)

          調査方法や当事者意識によって幅があるが,LGBTQの割合は日本においては3~10%であるらしい。多く見積もると左利きの人と同確率ということになるが,カミングアウト率は高くない。不寛容と無理解により,性的少数者たちが生きづらさを抱えている証拠である。しかし,数年前まで聞かれなかったLGBTQという単語がニュースやSNSで頻繁に飛び交うようになり,確実に人々の意識は変わっているとはいえそうである。まず言葉ありき。意味はあとから付いてくる。さて,その言葉を広める役割を担っているのが

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          162.さかなのこ(2022)

          161.ザ・ホエール(2022)

          45kgの特殊スーツを着て,体重272kgの男性を演じたブレイダン・フレイザーの姿が頭から離れない。妻と娘を捨て,同性のパートナーを選んだチャーリー(ブレイダン・フレイザー)は,彼を失ったことで塞ぎこみ,歩くこともできないほど過食症になってしまう。高カロリーの食物が散らかる部屋は脂っぽく,画面越しに見ていても胃もたれしそうだ。自重を支えられず歩けない彼は部屋から一歩も外に出ないため,カメラはほとんど「外」を映さない。サム・D・ハンターの舞台劇が原作であるゆえんである。亡くなっ

          161.ザ・ホエール(2022)

          失われた物語の中で|『君たちはどう生きるか』論考

          吉野源三郎の同作にインスピレーションを受け,オリジナルストーリーとして制作された宮﨑駿の最新作である今作の評価は真っ二つに分かれることになった。これまでのジブリにあるような「物語」としての側面は大きく後退し,アニメーターとしてのパーソナルな表現が前面に押し出されている結果だろう。『風立ちぬ』で引退を宣言した宮﨑がそれを撤回して監督した今作はあまりに自由で伸び伸びと作られている。次世代へのメッセージを含んだ「遺書」とすら呼べそうである。アニメーター宮﨑の自己開示,それは物語とい

          失われた物語の中で|『君たちはどう生きるか』論考

          街とその超えられない壁(2023.4.28)

          Bump of Chickenが「関ジャム」に出ていた。彼らはあまりメディア露出をすることがないため、録画して興味深く見た。Bump of Chickenは「天体観測」で衝撃デビューをして以来、常に前線で活躍しているバンドだ。ライブには若者の姿も多く、幅広い支持を集めている様子がうかがえる。テレビのスタジオでは現役バンドマンを中心としたフォロワーたちが思い出を語っていた。彼ら以外にも影響を受けたミュージシャンは多いだろう。フロントマンである藤原基夫の貴重なインタビューもあり、

          街とその超えられない壁(2023.4.28)

          160.怪物(2023)

          「怪物だーれだ」という不気味な予告が印象的なこの映画は,1つの事件に多角的に光を当て,黒沢明監督の『羅生門』的な構成で進行する。1つの物事をさまざまな角度から見せられると,自分たちがいかに狭隘な視点で世界を見ているかを気づかされる。戦争が「正義と悪」という二項対立で片付けられないように,現象は簡単に割り切ることはできない。人は世界を自分の見たいように見ているという「認知バイアス」は誰しも心当たりがあるだろう。SNSの世界では特にその傾向が顕著だ。子供に体罰を加えたとして謝罪す

          160.怪物(2023)

          159.Air エア(2023)

          1980年代,バスケットシューズ界はコンバースとアディダスが圧倒的シェア率を占めており,ナイキはその後塵を拝していた。しかし,無名選手だったマイケル・ジョーダンに目をつけることでナイキは一発逆転に成功し,業界トップへ躍り出ることになる。この映画はその成功譚を支えた情熱を余すことなく観客に伝えている。ナイキが「負け犬チーム」だったというのは2023年現在からすると信じがたいことであるが,常識は一夜にして書き換わる。朝起きたら社会主義国家が崩壊していることがあるように。この映画に

          159.Air エア(2023)

          158.別れる決心(2023)

          『オールド・ボーイ』や『お嬢さん』を撮ったパク・チャヌク作品とは思えないくらいに,性や暴力の描写が影を潜めている。しかし,その欠如が逆説的なことに観客の想像力を刺激する。ジョルジュ・バタイユは『エロスの涙』の中で,「エロティシズムは禁忌と侵犯の中にあり,それは死と切り離せない」と言っているが,今作では刑事チャン・へジュン(パク・ヘイル)と容疑者ソン・ソレ(タン・ウェイ)がその境界を侵そうとする。刑事と容疑者という関係を超えるのは「禁忌」である。その禁忌を侵犯しながらヘジュンと

          158.別れる決心(2023)

          157.ミナリ(2022)

          移民に光を当てた,静かで地味な映画である。「ミナリ」というのは韓国語で「セリ」を意味する単語だ。セリは再生力のある力強い植物であることから,母国以外の国に根を張る移民のメタファーとして作品内に登場する。アメリカは年間70万人を受け入れる移民国家であり,その文化的多様性が国力を支えている。カメラはそんなアメリカで移民として生活する家族を優しく見守る。三世代の家族が苦難を乗り越えていく過程を自然に描いており,その力強くも優しいメッセージが観客の胸を打つ。家族関係の「うまくいかなさ

          157.ミナリ(2022)

          156.うみべの女の子(2021)

          『ソラニン』といい,本作といい,浅野いにお原作漫画は想像したより実写化と相性が良いらしい(『おやすみプンプン』に関してはどうだろうか)。中学生である佐藤小梅を二十歳を過ぎた石川瑠華が演じているのは,強い性描写への配慮だろう(本作品で彼女は惜しげもなくヌードになる)。中学生という設定ながら,浅野らしく,なかなか過激な内容である。この映画は磯部恵介(青木柚)と佐藤の中学生の男女2人に焦点を当てて進んでいく。磯部は写真でしか見たことのない「うみべの女の子」という幻想を追いかけている

          156.うみべの女の子(2021)

          155.ワース 命の値段(2022)

          9・11同時多発テロの事件性は広く知られているが,その後,遺族に対してどのような対応がとられたのかはあまり知られていない。実際は補償基金を設立し,遺族に対して保証金が支払われたということである。だが,原理的に一人一人の「命」に値段をつけることはできない。便宜的に生涯賃金を概算することはできるが,人間の尊厳をそこへ繰り込むことは困難だからだ。ケネス・ファインバーグ(マイケル・キートン)はその「唯一解のない問い」に取り組んだ実在の弁護士である。補償を計算式で合理的に処理していこう

          155.ワース 命の値段(2022)

          154.パンチドランク・ラブ(2003)

          プリズミックな色彩感覚に優れた切り絵のようなジャケットが目を引く。それはお伽話の一場面のようだ。本作はキレやすく情緒不安定な男のちょっと変わったパンチドランク・ラブストーリーである。混乱したバリー・イーガン(アダム・ドライバー)の心象風景により,観客も混沌の渦に巻き込まれる。軸はシンプルなラブストーリーなのだが,そこにテレフォン・セックスが絡んでくる展開が可笑しい。ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品は一筋縄にはいかない。安いプリンを買ってマイルを貯め,海外旅行に行く話も

          154.パンチドランク・ラブ(2003)