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小学生サバイバル~最悪で最高の野外活動~

すったもんだで五年生に辿り着いたお話を書こうと思います。五年生といえば『野外活動』と呼ばれる行事がある学校は多いのではないでしょうか?
活動の趣旨は、『家庭から離れた自然あふれる土地や空間で同級生と協力して自立した生活活動を行う。また、集団行動を通して自分の役割を明確にし他児との協調性を高める』などと思いつくままに理想の目的を考えてみました。
とにもかくにもわが子にとっては人生最大の危機に瀕するほどのビッグイベントでした。

第一関門:自宅以外の場所に泊まる
     (しかも二泊三日)

不安の塊のわが子にとっての安心材料の一つは『我が家』です。自由で自分を解放でき安全が保証されている場所です。そのおかげもあって、母と離れる不安は『家にいる』ということでかなり緩和できていました。
三年生までは児童クラブで放課後を過ごしていましたが、四年生からは意外とスムーズに自宅で一人でお留守番ができるようになりました。これは私が仕事を続けていくうえで大変助かったわが子のスキルです。

さて、その大切な家を離れて山奥に泊まる。しかも自分をいじめる大嫌いな同級生と一緒に二泊三日過ごすことになるわけです。わが子にとっては楽しみなわけもなく(誇張ではなく)絶望そのものでした。

泣いて嫌がってもここは『やらなければならないことはやる』としかいいようがありません。もちろん手放しで放り出すわけではなく、担任、コーディネーター、教頭との綿密な作戦会議を何度も重ねました。

また、事前に夏休み中に親子で個別に野外活動体験を行いました。
本番で行う予定の沢登りや野外炊飯、ベッドメイク、入浴、食堂利用、キャンプファイヤーなど、本番と同じ場所で実際に二人でやってみました。
そこで一人でできたこと、困難だったことがわかれば支援体制を考えるヒントになると考えました。
意外と一人でできることも多く入浴などは難なくクリアできました。

どの場面でどの先生がサポートにつくか、パニックを起こしたときはどこに避難するか、活動グループ編成もなるべく当たりの柔らかなお子さんと一緒にしていただきました。
また、グループで同室でしたが二段ベッドのベッドメイクに困難が予想されたためベッドの位置も下の段の端にしていただき動ける導線を広くしました。

第二関門:キャンプファイヤー


キャンプファイヤーは前の年に参加した別の親子の野外活動で大変なパニックを起こした経験がありました。
真っ暗な夜に野外で、白い布を巻きつきけた火を起こす係りの人たちが山の神から授かった火をいただいて大きな炎に変えるという点火儀式に恐怖を感じたようでした。「なんであんなことするの?」と泣いて騒いで大変な乱れ様でした。

パニックをおさめるために感情を発散できる方法を考えました。そこで職員の方(教職員の方)にわが子が発達障害を持っており火をつける儀式に対してパニックを起こしているので話を聴いてもらいたい、とお願いしました。
職員の方は快諾してくださり、落ち着いた対応で話を聴いてくださいました。
ここで話を聴いていただくことによって『困った時は信頼できる大人に相談する』という対処法を再学習することができました。

話を聴いていただき少しは落ち着いたわが子でしたが興奮の気持ちは消灯時間になってもおさまらず「眠れない」と一晩中ぐずり続けるという、母にとってははた迷惑な睡眠妨害の長い夜を過ごしました。

第三関門:セルフケア

日常生活動作を自立して行うことができる、これは一年生から関わっていただいていた主治医から特に注意されていたことです。

一人で入浴する練習は三年生から初めて五年生までには完ぺきにできるようになりました。整容に関しては保湿、日焼け止めを塗る、髪をとかすなどの練習を幼少期から行っていました。
DCDを持っていることと生まれつき両肘が完全に屈曲できないために日常生活動作にも制限がありました。
例えば、右手で右の首や襟元を触ることができません。そこまで肘が曲がらないため、逆の手に置き換えて動作をするという工夫が必要になります。これは髪をとかす時にも同様でブラシを持ち替えて頭全体をとかすという動作の練習を繰り返して習得しました。

日焼け予防をすることも生まれもった疾患で余儀なくされていました。スタージウェーバー症候群という毛細血管の奇形が起こる難病です。幸運なことに脳に異常がなかったためにてんかんなどの症状を免れることができました。しかし、顔面の目立つ部分に毛細血管が表面化して見える赤あざがあるために一歳の時からレーザーで表皮を焼くという治療を行っていました。
あざの黒ずみを抑えるために日ごろから日光をなるべく遮ることが必要でした。日焼け止めと帽子はわが子にとってはマストアイテムでした。

自傷行為の予防をするために手指にフィルムテープを巻くこともこの頃は欠かすことができませんでした。ただでさえストレスがかかっている状態なので手指の皮むきが増加していました。
フィルムテープを貼ることは慣れない人にとっては意外と難しい処置ですが毎日行っているうちにわが子は自分で器用に扱うことができるようになりました。幼いころは過敏でカットバンも貼れなかったのがウソのように自分でテープを貼れるようになりました。

第四関門:荷物整理

片づけが苦手、というか目的に沿って物事を整理することが苦手なのだと思います。例えば服を畳む動作を練習すればできるようになりますが、使いやすいように機能別に分けたり、目的別に分類することは案として思いつかないために自力で行うことが困難となります。

二泊三日の宿泊の持ち物には上靴や予備の外靴、防寒着、レインスーツなど使い慣れないものも多くありました。また、入浴セットや使用した洗濯物をコンパクトにまとめるという作業もあります。袋にタグを書き込んで荷物の整理の仕方も何度も一緒に確認しました。

第五関門:メンタルコントロール

最大の難関がメンタルの自己調整です。先生方は協力的で何とか宿泊学習を成功できるように協力してくださいました。しかし、本人が感じる不安や恐怖感を無くすことは不可能です。
予想される感情の変動についての対応策は事前に場面ごとに決めておきました。

さて、実際にはどのように過ごしたのか。
当日の朝、荷物が多かったために学校の近くまで車で送りました。行きたくない気持ちは『行くしかない』という決意に変わっていました。車から降りるときに「行ってらっしゃい」と声を掛けました。弱音を吐くかと思えばわが子は真っすぐと前を向き、一度も振り返らずに歩きだしました。
見送るわが子の後姿には必死で一人で頑張ろうと決意をした力強さを感じました。

活動中は何度も泣きそうになったり泣いたりしながらも自分で気持ちを切り替えて活動を継続することができたそうです。
天候の影響でハードな沢登りは中止となり、苦手な活動もいくつか変更になったそうです。
恐怖のキャンプファイヤーでは、薪を準備する係になることで少しでも心の準備ができるように先生方とも話し合い決めました。
グループごとの出し物はしっかりと参加することができたそうです。しかし、その他はやはり泣きながらパニックを抑えつつ必死に耐え忍んでいたようでした。コーディネーターの先生が少しでもわが子の支えになるようにとずっとそばについていてくださりました。
夜はさすがに日中の疲れが不安に勝ち、ぐっすりと眠れたようでした。

夜にどうしても寂しくなったら家に電話をしてもいい、という保険をかけていましたが敢えて自分から断ったようです。

泣いたり、笑ったりと様々な感情を含んだ二泊三日の野外活動はやっと終わりの日を迎え、身体的には無事に帰ってきました。迎えに行った時に見せたほっとした顔が本心だと思います。

家に帰ってから「あんな所には二度と行かない!」というのが感想でした。
労いの言葉をかけて、よく頑張ったことをたくさん褒めました。本人にしてみればつらいばかりの経験も、きっと見えない成長につながっていることでしょう。

最悪の二泊三日を生来最高の強い意志を持って成し遂げたというお話でした。
わが子よ、たいへんよくできました。

ここまで読んでくださりありがとうございます。



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