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【怪奇ファイル002】天狗の正体を教えてもらった話

結構昔の話なんですけど。私が大学卒業後にブラブラしていたときに起こった出来事です。その時期は仕事もしないでたまにパチスロを打つ日々でした。お金は稼いでいたので立派だと思います。

その日も朝からパチ屋に行きました。開店待ちの行列に並ぶのがクールなスロッターのやり方。誰にもオレの生き方を否定させねえ。否定していいのは親だけだ。こんな子に育てた覚えはない。

と思うじゃないですが。ところがどっこい。『大学に行け』と言ったのは親です。そしてパチスロを覚えたのは大学です。大学の講義中に友達から習いました。つまり大学の講義で習ったわけです。つまりパチスロの道を歩かせたのは親です。

よって。実は一番否定してはいけないのは親です。お前の言うとおりにやったからこうなった。それは分かって欲しい。この世の全ての親に。これが俗に言う『責任転嫁』です。


みたいなことを考えながらいつものパチ屋に向かいます。すると呼び止められました。『お前ちょっと待て』と聞こえました。得体のしれない何者かの声がします。まぁ人間は人間ですけど。

しかし知らない人に呼び止められるのは怖いです。まずタメ口なのが怖い。『誰とケンカになっても勝てる』と思っている人です。しかもそういう人って初対面で堂々と茶化してくるんですよね。

関わると面倒です。どう転んでも嫌な思いをする。というか怖いです。だから無視しました。私はスタスタ歩きます。誰にもオレの邪魔はさせねえ。

しかしながら。悪いことは続くものです。急いで我が道を進む私の目の前に。信号待ちのアフリカ象がバックしてきました。ドスンドスンって。超ビビった。

でも大丈夫。ヒラリとかわしました。ホッとして前を見ると。なんと。恐ろしいことに。そこには『酒吞童子』がいました。大江山に住む鬼の棟梁です。さっき私に声をかけたのは人間ではなく酒吞童子でした。

「お前変わったやつだな」

と言われました。確かに私は普通の人生を歩んでいません。大学卒業後に無職です。しかしながら。『珍しさ』に関して酒吞童子に勝てる気がしません。酒吞童子の数より私みたいな人間の方が絶対多いです。

つまり茶化されました。やはりこういう人は最初にケンカを売るところから始まります。ケンカを買わないやつはビビってもう言いなりです。だから関わりたくなかった。もう言うことを聞くしかありません。

せめて相手がその辺のヤンキーだったら。人間同士の争いならケンカが弱いボクでも勝率0%ではありません。でも酒吞童子に勝てるわけがない。日本三大妖怪の一角です。残り2つは九尾狐と大嶽丸です。というか大嶽丸なんか知らん。読み方も分からんもん。

と一瞬思いましたが。すぐに考えを改めました。なぜなら。そんな冷たい一言で終わらせたら大嶽丸さんに失礼だから。私は『人に失礼な事をしてはいけない』と子供のころから親に厳しくしつけられてきました。私が立派な大人に成長できたのは親のおかげです。

しかしながら。知らないものは知りません。忘れていたことなら思い出せますが。大嶽丸さんの知識は完全にゼロです。ビールで言うと糖質ゼロです。私には彼を救うことが出きない。私は無力です。

と昔の私なら思っていたことでしょう。しかしながら。今の私は違います。私にはインターネットがあるのです。何でも知ってる便利な箱が家に帰れば机の上に乗っています。

『すぐに家に帰ろう。大嶽丸さんに失礼があってはいけない。』

私は今日の予定(パチスロ)をキャンセルして。駅へ引き返すのでした。とはならない。なぜならそれを実行するには問題が2つあるから。一つは『当時の私の家にインターネットが無い事』。もう一つは『目の前に酒吞童子がいること』です。

まぁ酒吞童子はいいです。関わりたくないので無視します。お前と話している暇はねえ。実はさっきからなんか必死に言っておりますが全部無視しています。

それでもう一つが難問です。家にインターネットがありません。まだブロードバンドが普及していない時期です。だから『結構前の話』だと最初に言ったじゃないですか。5年ぐらいだと思った? もっとずっと前ですよ。

結局いつも通り。私は無力です。能力がないから自信がない。自信がないから面接でしゃべれない。だから職にありつけない。職がないから能力が育たない。お金がもらえるからモチベーションがあがり仕事が上達するのです。職探しのために無報酬で勉強が出来る人間はいません。

この悪循環が私の人生を苦しめています。誰か助けて欲しい。一人では何もできない人間もいるのです。それを見捨てると無職が増えて税金が上がります。余裕がある人は人助けもするべき。巡り巡って自分のためです。

能力が高い人達が無職を一人ずつ捕まえて、就職をチョチョイと手伝ってあげると日本経済はすぐ復活します。自分の会社だけ伸ばそうとしても消費者が増えないと売り上げは伸びません。

でもそんなことはどうでもいいです。それより問題は大嶽丸さんです。彼を救ってあげたいのに私に手を差し伸べる神はいません。いつだって一人です。と思っていたら。救いの神が現れました。

なんと。目の前に。『酒吞童子』がいます。大江山に住む鬼の棟梁です。この偶然の出会いの何が凄いかって。酒吞童子と大嶽丸さんは両方とも日本三大妖怪です。要は知らない仲じゃないのです。

つまり。『聞けばいい』です。私は棟梁に質問しました。

『棟梁!大嶽丸さんってどんな妖怪ですか?』

すると棟梁は少し悩んで手を叩きました。知っているようです。

『大嶽丸なら会わせてやるよ。着いてこい。』

さすが棟梁。面倒見が良いです。妖怪の大群を率いて平安京を壊滅させただけはあります。私は今日の予定(パチスロ)をキャンセルして棟梁に着いて行きました。


私は動物園にいました。私の前には目の周りが黒く塗られた白熊がいました。タイヤで遊んでいます。看板には『ジャイアントパンダ』と書いてあります。中国産です。要は『パンダ』です。大嶽丸さんじゃありません。

『これがパンダだ』

と棟梁が言いました。もうパンダと言いよるやん。どこから指摘してあげたらいいのやら。さすがの私もお手上げです。きっと大嶽丸さんはパンダなんんだ。そういうことにしておこう。

『こっちには天狗がいるぞ』

いたのはキタキツネでした。これはヒドイ。せめて九尾と言って欲しい。もしくは鳥系の動物にして欲しい。あとはテングザルという手もある。キツネと天狗は遠すぎます。

しかしながら。ボクをここまで連れ来てくれた棟梁の善意を裏切れない。私は優しさに飢えていました。その気持ちだけで十分です。

きっと天狗の正体はキタキツネだったのです。両方とも山にいます。



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