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GLOBE・GLOVE(9)

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 美緒との関係は何も進展しないまま、僕たちは中学三年生の夏を迎えた。
 僕たちのチームは、いろんな意味で有名になっていた。
 エースで四番のキャプテン川村を中心に、打撃はダメだが川村の決め球のフォークボールを一度も後ろにそらしたことがない僕。そしてなにより美緒の存在だ。
 真夏でも長袖のアンダーシャツがトレードマークの女子ピッチャー。有名にならない方がおかしい。なんども地元新聞の記者やスポーツライターが取材を申し込んできた。いつも美緒が「いやや、めんどくさい」と取材を断るので、最初はほっとしていたのだが、逆にそれでよけいに噂が立つ始末だった。
 美緒が目立つことを恐れ、いつもイライラしていた僕だったが、幸いなことに男子より女子の方が成長が早い分、二年生の真ん中あたりで美緒の身長は止まり、逆に周りの男子部員たちの身長が伸び、美緒が目立つことはなくなった。
 美緒はフォームをオーバースローからスリークォーターに変え、スライダーを覚えて変化球投手に転向した。中学三年の春には逆の方向に曲がるシンカーまで投げられるようになっていた。監督の方針で美緒はオープナーを任されるようになり、川村の球数を減らすことに貢献した。
 小学校の頃と違い、美緒はなぜか昼間の投球練習は手を抜くようになったが、そのかわり、「バッセンいくで」と練習終わりに僕を誘ってバッティングセンターに行くようになった。
 美緒はオープナーなので打席にたつ回数は少ないが、何か思うところがあるのだろう……。僕はそう考えて、毎日バッティングセンターに付き合った。僕はバッティングに難があるのはわかっていたので、願ってもない話だった。
 しかもホームランを打つと、
「ナイスバッチン」の声とぴかぴかの笑顔をくれるのだ。僕にとってこれほどの報酬はなかった。
「バッセンやったら打てるんやけどなあ」
 美緒は、バッティングセンター最速、かつランダムに変化球を織り交ぜてくる最高難易度のゲージで打つことを僕に強要していた。毎日通っていると、さすがに何球かは打てるようになる。
「狙い球絞るの下手やもんな」
「キャッチャーの俺にいちばんいうたらあかんせりふやで。それ」
「あんた、バッターの狙い球外すのはうまいもんな」
 世界の誰に褒められるよりうれしい。美緒に褒められ続けるには、勝ち続けるしかない。
 僕らの中学は県内軟式野球界でも強豪と呼ばれるチームになった。このままいけば全国大会も夢ではない、そんな下馬評すら聞かれるようになった。
 しかし、三年夏、中学最後の大会は、小学校の大会と同じようにあっけなく終わった。


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