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第256号(2024年3月4日) 「核使用基準」とはなんなのか ロシア軍流出文書報道から考える


【今週のニュース】ウクライナへの砲弾80万発供与計画

アウディーウカの陥落とその後

 2月17日、ロシアのショイグ国防相は、ドネツク州のアウディーウカを完全に掌握したとプーチン大統領に報告した。アウディーウカは2014年に始まったロシアによる最初の侵略でも戦場となり、その後、要塞化されていたが、ついに陥落したことになる。
 その3日後、国営TASS通信のインタビューに答えたショイグは、アウディーウカ攻略に関して詳しく語っている。ショイグによれば、昨年夏以降に行われたウクライナ軍の反転攻勢を凌ぎ切った後、ロシア軍がアウディーウカへの攻勢準備に着手したのは秋のことであった。前述のようにアウディーウカは堅固に要塞化されていたため、1日あたり460回、重量にして200トンもの火力を集中するという作戦が採用されたという(この他には囚人部隊による非人道的な肉弾攻撃が行われたことも大きいがショイグはこれについて語っていない)。

 こうした集中攻撃の結果、ウクライナ軍はアウディーウカからの撤退を余儀なくされた。この際、かなりの数の捕虜が出たほか、負傷者を置き去りにせざるをなかったとされ、これまでのウクライナ軍の撤退戦と比べるとかなりの混乱が起きたように思われる。

 さらに憂慮すべきは、アウディーウカを掌握した後もロシア軍が勢いを失っていないことであろう。ウクライナ軍はアウディーウカ西方に防衛ラインを引き直したが、その後もステポヴェとオルリウカの2村落が陥落しており、おそらくロシア軍はアウディーウカ攻略で損耗した部隊に代わる予備隊をかなり豊富に持っている可能性が高い。今後、ウクライナ軍がこの正面でどれだけ持ち堪えられるのかが当面の焦点となろう。

チェコがかき集めた80万発の砲弾がウクライナへ

 ショイグがアウディーウカ陥落を報告したのと同じ2月17日、チェコのパヴェル大統領は、ウクライナ軍にすぐ供与できる砲弾80万発を見つけたと発言した。ドイツのミュンヘンで開催されていた国際安全保障サミットの特別イベント「ウクライナ・ランチ」で明らかにされたもので、155mm砲弾50万発と122mm砲弾30万発からなるという。

 これだけの砲弾が一体どこに眠っていたのかは明らかでないが、欧州域内にこだわらずに世界中を探した結果、金さえ出せばすぐに調達できる砲弾がこの程度はあった、ということのようだ。パヴェルはそのための資金源としてデンマーク、オランダ、カナダの協力が得られたと明らかにしているほか、米国、ドイツ、スウェーデンにも協力を求めるとしている。さらに最近ではベルギーがこの枠組みによる砲弾調達に2億ユーロの拠出を表明したほか、フランスのマクロン大統領も参加の意向を示している。砲弾の第一陣はまもなくウクライナに送られる予定とされるが、日本もこの枠組みに対する資金拠出を考えてはどうだろうか。

【インサイト】「核使用基準」とはなんなのか ロシア軍流出文書報道から考える

ロシア軍の機密文書が流出

 2月28日付の『フィナンシャル・タイムズ』に掲載された記事が話題を呼んでいます。ロシア軍の核使用基準に関する文書が流出し、それが西側の情報機関関係者から『フィナンシャル・タイムズ』に提供された、というものです。
 記事によれば、文書は合計29件。2008年から2014年までの間に作成されたもので、軍事演習のシナリオや、海軍将校向けの講義資料などから成るといいます。
 なお、記事の原文はこちらですが、ありがたいことに日経新聞が全文の日本語訳を2回に分けて掲載してくれています(さすが親会社)。

  流出した文書に記された核使用基準は、これまでロシアが公的に認めてきたよりも低いと記事は述べています。しかし、核使用基準とはなんなのでしょうか。そもそも核兵器を使用するときに「こうなったら使う」という明確な基準は本当に存在しているのでしょうか。そのようなものがあるとして、流出文書の内容はロシアの「核使用基準」なるものが想定よりも低いことを示すのでしょうか。本号では、この辺について考えていきたいと思います。

対中国演習での核兵器使用シナリオ

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