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第231号(2023年7月31日)ロシアの徴兵対象年齢拡大が示す戦争長期化の見通し


【インサイト】ロシアの徴兵対象年齢拡大が示す戦争長期化の見通し

徴兵対象年齢拡大法の成立が確実に

 7月25日、ロシア下院は、18-27歳だった従来の徴兵対象年齢(このうちのどこかで12ヶ月間勤務する)を18-30歳に拡大する法案を可決しました。28日には上院にもこの法案を承認したため、残された立法上のステップは大統領の署名だけであり、この線で法制化されることはほぼ確実な情勢と言えます。法案が成立すれば、2024年1月1日から発効の見通しとなっています。

 ここでロシアの徴兵制について簡単に説明しておきましょう。韓国なんかだと一定の年齢に達した男子国民は自動的に軍隊に行くようになっているようですが、ロシアの場合は違います。毎年何人を招集するかは春と秋の徴兵期に大統領が大統領令で決定するものであるからです。したがって、ロシア式徴兵制では10年間(18-27歳)の対象年齢層を設けておいて、その中のどこかで12ヶ月間軍隊に行ってこい、ということになっているわけですね。10年間の間に毎年2回、計20回の徴兵が行われるので、そのどこかには引っかかるだろうということです。
 ところが、現実には徴兵を経験していない人、というのがロシア社会には結構います。特にモスクワなどの大都市だと行っていない人の方が多いのではないでしょうか。1990年代以降、軍隊の生活環境や治安が悪化し、しかも情報の自由化によってその事実が社会に広く知れ渡ったので、ロシアの親たちは何とか息子が軍隊に行かなくて済むように手を尽くすようになったからです。
 また、ただ単に10年間に一度も徴兵令状が来なかっただけ、という人もいます。徴兵は全国規模で実施されますが、実施単位は州や共和国などの連邦構成主体なので、住んでいる場所によっては人口に対して召集される人数が少なかったりします。
 ただ、徴兵は毎年実施しますから、回数が増えれば増えるほど「漏れ」が生じる確率は低くなります。今回の法改正では、10年間(18-27歳)だった徴兵対象年齢が13年間(18-30歳)になったわけで、ある人が一生軍隊に行かずに済むためには26回の徴兵全部をやり過ごさねばなりません。政府や軍から見ると「取りこぼし」を大幅に減らせるということになるでしょう。

ショイグ提案から一転

 本件の経緯はなかなか複雑です。
 この話は昨年12月、ショイグ国防相が国防省拡大幹部評議会で提起した徴兵改革案に端を発しています。この際、ショイグが提案したのは、徴兵対象年齢を20-31歳とするとともに、本人が希望すれば入隊初日から契約軍人として勤務できるようにする、というものでした。

 このプランを法制化する役割を担ったのは下院のカルタポロフ国防委員長です。参謀本部作戦総局長、政治軍事総局長を経て2021年に下院議員に当選、というキャリアを歩んできた人物ですから、ショイグ提案を忠実に議会で実現しようとしたのだと思われます。
 実際に法制化へ向けた動きが始まったのは今年に入ってからで、この当時、カルタポロフは「(徴兵対象年齢の下限を20歳に引き上げることで)昨日まで学生だった連中ではなく、もう立派な大人を招集できるようになる」と法案のメリットをBBCロシア語版に対して語っていました。

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