Flower Moon

画像1 ふと目が覚めれば、明け方の4時だった。ダイニングルームの窓の向こうに、就寝前には雨が降っていて見ることができなかった満月があった。風が強い、雲がどんどん流されていく、タイミングを見計らって、部屋の中からシャッターを切ったが光は強すぎた。窓に貼った鳥衝突防止用のステッカーが、光の中で舞い踊る。
画像2 何枚か撮った後、やはり物足りなくなってコートを羽織る。そっとドアを開けて裏庭に出れば、湿った空気は思ったほど冷たくはなかった。濡れたような空はまだ朝の光を感じさせない。墨色の空に覆いかぶさる木々のさらに深い色。その向こうの輝きに焦点を当てれば、闇の中に掲げられた指標のように感じた。迷い道のその先だ。
画像3 光の中で心に浮かぶことはそれ以上になかった。ただただその輝きに魅了される。木々の美しさが空けていこうとする夜の中に浮かび上がる。まるで古いシネマのようだ。音もなく、されどどこまでも饒舌で、何もないのにぎっしりと満たされているような、そんな喜びを覚える。
画像4 やがて青くなっていく空の中、目を凝らして私は見つめ続けた。一枚、一枚、シャッターを切るたびに変わっていく空の色。もっともっと紫を感じさせる空が、思うように掴めなくてもどかしい。けれどそんな感情もやはり一時で、私はまた、光だけを感じる世界の中に支配される。
画像5 雲が流されていく。それはまるで光る羽衣のように、まとわりついてはひきちぎれる。ああ、Flower Moon ため息のように言葉にしてみる。輝く月は揺れる新緑の向こう。その名の通り花のように微笑んでいる。何一つピントの合っていない写真を胸に、それでも微笑まずにはいられない。明け方の、また雨が降り出す前の、ほんの一瞬の奇跡。

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