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過去と未来と花咲く荒野

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深く想い合う兄妹二人の時間を自由詩形態で紡ぐ1話ごとに完結のシリーズ 離れ離れになる日、互いのなすべきことを果たしたら、 また一緒に暮らそうと約束する。 幼い彼らの日々が詰ま… もっと読む
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記事一覧

【物語:自由詩シリーズ】第15話 薔薇色の傘と雨だれ

夏へ向かう雨は力を感じさせる。 全てを洗い流してしまってくれるかのような力。 薔薇色の傘…

クララ
13日前
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【物語:自由詩シリーズ】第14話 ライラック薫る午後の会話

足早に通り抜けようとした駅前広場。 ふと甘い香りに誘われて足を止めた。 お嬢さん、持って…

クララ
4週間前
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【物語:自由詩シリーズ】第13話 おとぎ話を超える夢の続き

かつて屋根裏部屋は物置だった。 しかしそう呼ぶには物が少なすぎて、 いつか二人だけの新しい…

クララ
2か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第12話 陽だまりの約束

週末のマーケットは活気にあふれていた。 新鮮な野菜に果物、乳製品にワインやリキュール。 そ…

クララ
2か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第11話 春雷と温もりの素敵な因果関係

大地を揺るがす唸りに慌ててベッドを降りれば 春の夜はまだ冷たくて 裸足の私はブルリと身を震…

クララ
2か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第10話 白き花舞い散る午後の庭

水車小屋のパン作りから戻ってきたら 中庭に向かう扉を開け放して 兄がチェロを弾いていた。 …

クララ
2か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第9話 満月に開かれる秘密の扉

白銀の輝きに世界が満たされる夜、 私たちはこっそりと家を抜け出す。 もう叱る人もいないけれど、 息を潜め足音を忍ばせて。 長く伸びた影を追いかけ追いかけられて。 ハリエニシダの木陰に走り込み 大きく息をついて顔を見合わせる。 春の訪れが告げられてから初めての満月。 それは解放されていく季節の予感に彩られ 騒ぎ出す胸の高まりを抑えることはできない。 光降り注ぐ中、泉が昼とは違った顔をしている。 小さい頃からここは魔法の王国だった。 満月の夜の楽しみは今夜も変わらない。

【物語:自由詩シリーズ】第8話 罪作りな菫摘み

午後は菫を摘みに行こうと準備していたら 書斎で仕事中の兄が一緒に行くと言う。 食べるのは私…

クララ
3か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第7話 北東の窓で待ちわびる

壁際に並んだ本たち。 そこからお気に入りの一冊を抜き出す。 離れゆく朝に持ち出したそれは、…

クララ
8か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第6話 バスケットいっぱいの春

明日は水仙を摘みに行こう。 兄の言葉に思わず笑みが広がる。 丘を越えてその向こう、そこには…

クララ
8か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第5話 深く甘く霧の朝

窓の外には立ち込める霧。 朝露に濡れて光輝く丘陵も ほころび始めたヒースの紫も見えない。 …

クララ
9か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第4話 虹色の誘惑

通り雨の後の虹。 誘われるように丘へと出かける。 年老いたドルイドの背のように 大きく曲が…

クララ
9か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第3話 週末のファイブオクロック

しゅうしゅうとケトルが騒ぎ出す。 呼ばれているよ、 読みかけの本から兄が顔を上げた。 刺繍…

クララ
9か月前
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【物語:自由詩シリーズ】第2話 風の中の季節

小さい頃のように二人で手を繋いで丘に出た。 もっと風が強かったわと私が言えば、 僕らが小さかったのさと兄が笑った。 岩陰に揺れる黄金のハリエニシダのように、 私たちは足を踏ん張って顔を上げ、 海からの風に向かう。 頬をかすめる冷たさが、けれど心地よかった。 帰ってきたのねと私が言えば、 これから始まるのさと兄が笑った。 私たちが愛してやまない色と形、 荒野を紫に染めるヒースの季節が近づいてくる。