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【詩】麗しき真実の力

僕の庭を訪れた彼女に
薔薇の名前を一つ一つ教えながら歩く午後。
彼女が振り返って眉をひそめた。

悪趣味だわ。
悲劇のヒロインに同情したの?

外界を知れば身の破滅。
けれど対岸の歌声に誘われ
割れた鏡を残して小舟で漕ぎ出した、
そんな少女の名を持つ花。

違うさ、真実を与えたんだよ。
少女を縛る戒めから自由にしたんだ。
ごらん、幸せそうだろう?

美しいフリルを重ねたような
花びらの奥から直に世界を見つめる。
陽光に目を細め、風に身を委ねる。
もう恐れなど、怯えなど、どこにもない。

歌う男がそんなに見たければ、
僕が歌ってあげてもいいだろうしね。
ああ、きみも聞いていくかい?

呆れられるかと思いきや、
彼女がはにかんで微笑んだ。

素敵な余興ね。
まずは熱い紅茶をいただけるかしら。

続く言葉に僕は、知らず息を漏らした。
薔薇香る午後の庭は
間違いなく幸せに満ちているようだ。

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