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あの人に会える場所

そこは都心のど真ん中にありながら、ちょっと昭和レトロな建物の小さな個人病院。いつ行っても先生を頼って集う老若男女で溢れている。

私は小さい頃からアトピーがあり、ずーっと皮膚科難民だった。重度ではないものの、一度悪化すると薬がないと回復できず、全身のかゆみが辛いので、常に薬は常備していないと不安だった。

“リンデロン”という薬を処方され、ずっと塗っていたら、それはかなり強いステロイドで、塗りすぎると皮膚に負担がかかるということを知ったのはずいぶん後のことだったし、1990年代のマスコミのステロイド批判に怯えたりした。

漢方の赤い薬を処方され、調子が良くなったかと思うと引越しと共に通院できなくなり、上京して銀座の有名な女医の医院に行ったら心ない言葉をかけられて傷ついたり。3ヶ月だけベジタリアンになってみたけど体の変化が見られず、結局肉が食べたくなって辞めたり。

とにかく納得できる先生と薬に出会えるチャンスがなかなかなかった。そんな時ふと出会ったのが、当時の自宅の近所にあった、冒頭の個人病院である。

初めて訪れた時、その診察方法にカルチャーショックを受けた。どんな生活を送っているか。皿洗いのとき、ゴム手袋はしているか。体は何で洗っているか。事細かく聞かれた。そのひとつひとつを潰していき、先生が調剤薬局に特別に配合してもらっている薬を塗ると、驚くほどアトピーが改善した。気を抜くとアトピーであることを忘れそうになるくらいだった。

先生が教えてくれたことをいくつか書いてみると・・・

・食事はあんまり関係ない
・界面活性剤はだめ
・手荒れには、薬を塗る→ビニール手袋→綿手袋がよい
・体を洗う石鹸はIVORY(固形石鹸)がおすすめ

などなど。もう10年ほどお世話になっているが、静かに温かく見守ってくれている、ということを感じながらケアされるということが、こんなに心地よいものなのか……!と毎回感動するほど、そこには正しいヘルスケアが実行されている場所なのだ。

私がその病院が好きな理由がもうひとつあって、スタッフの人が個性的なのだ。特に大好きなその人は、樹木希林っぽいキャラで、先生の話を聞いているといつもスッと横に現れて、先生の指示を受け、ぽてっとした柔らかい手で患者の私に薬を塗ってくれる。塗りながら、「1日2回塗ってね」「患部に化粧水なんかつけちゃダメよ」とか色々指導してくれる。たまに面白いことも言ってくれる。

その人に言われると、何でもちゃんとしよう!と思って、「はい」「はい」と子供みたいに返事をしてにこにこ笑ってしまうのだ。

その病院での彼女の存在はすごく大きいと思う。先生もとっても穏やかでいい人だけど、そんな素敵な人がいるから、こんなに長いこと通っていられるんだろうなと思う。

患者と向き合い、耳を傾け、ケアをする。そんなシンプルで当たり前のことができない病院も多い(個人の感想です)。

日々の理不尽に惑わされがちだけど、人って本来こうあるべきだよね。これが正しい道だよね。そう納得させてくれる、私の大切な場所だ。

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