透明なゆりかご#3

放映中のNHKドラマ『透明なゆりかご』を見た。

簡単な盲腸の手術をした夫が、全身麻酔の合併症で脳に障害を負い、自発呼吸ができなくなり、余命わずかとなってしまった。大切な人を突然失って、でも誰の責任でもなくて、どうしようもない感情をどうやってコントロールすればいいのか。

田畑智子さん演じる妊婦さんは、そのすべての感情を怒りに変えて、他人にぶつけていた。なんの躊躇もなく、理不尽なくらい強気に怒っていた。

原作でストーリーはわかっているのに、ひとり号泣。小さな息子を失ったとき、私も同じ状況で、でもその感情を怒りに変換することは私はできなかった。貝のように、口を閉じてしまった。

最後に妊婦検診をした若い男性医師の対応には、色々と問題があり、チームリーダー的な先生にはいいたいことがいっぱいあった。でも何も言えなかった。

そもそも感情を怒りに変換するエネルギーなんかどこにもなかった。あまりの悲しみに押しつぶされそうになっていたし、もうこれ以上、あの子を汚すようなこともしたくなかった。

その問題のあった若い男性医師は、最後の検診以降一度も私の前に現れなかった。そのことについてはずっと何か言わないとと思っていた。

でも、チームのひとりである別の医師が、死因究明のための解剖をするかどうか聞きにきたとき、その目を見たときに、色々言おうと思っていたことがすべて溶けていってしまった。

彼の目には、誰よりも、その結果に納得していない、なぜこうなったのか、なぜ救えなかったのか、そんなさまざまな感情が、渦巻いていた。ひとりでもそう感じてくれる医師がいれば、もう十分なのではないかと思ったから。

その後、その大きな病院は、組織の汚職でメディアを賑わすことになる。そのたびに、すばらしいグリーフケアをしてくれた助産師さんや、疲れ切った表情の女医さんの顔が目に浮かぶ。これを機会に、組織が一掃され、本当にいい医療が提供できる場所に変わっていってくれたらいいと思う。

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