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H3ロケット試験機2号機打ち上げ成功 再挑戦果たすも「これからが正念場」

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2024年2月17日、H3ロケット試験機2号機の打ち上げに成功した。試験機1号機の打ち上げ失敗からの"再挑戦"を掲げたミッションを完遂し、飛行実証を果たした。

 だが、H3の開発はこれからも続く。とくに安定した運用と、国際競争力の確保という挑戦は、これからが正念場となる。

H3ロケット試験機2号機

 H3ロケットは、JAXAと三菱重工が共同で開発している次世代の大型ロケットである。

 現在の主力ロケット「H-IIA」の後継機として、安全保障を中心とする政府のミッションを達成するため、国内に保持し輸送システムの自立性を確保するうえで不可欠な輸送システム「基幹ロケット」として日本の宇宙輸送の自立性を維持し続けるとともに、国内外の企業などから受注してビジネスとして打ち上げる「商業ロケット」としての活用も目指している。

 H3が目指すのは、柔軟性・高信頼性・低価格の3つの要素を兼ね備えた「使いやすいロケット」で、H-IIAがつちかってきた特徴を受け継ぎつつ、より発展させ、衛星事業者などの利用者の要求や期待に、十分に応えられるよう、さまざまな工夫が取り入れられている。

 たとえば、第1段メインエンジンには、日本独自の技術を用いた新開発の「LE-9」を採用する。また、第 2 段機体をはじめ、機体全体も大型化するなどし、H-IIAの良さを活かしつつ改良を図る。これにより、H-IIA よりも大きく重い衛星を打ち上げられるようにするとともに、機体の設計は共通なまま、LE-9の基数や固体ロケットブースター「SRB-3」の本数の組み換え、衛星フェアリングの種類を変えることで、多種多様な大きさ、質量の衛星の
需要、要求に対応できるようにしている。

 打ち上げ価格は、最小構成の「H3-30S」において、製造が安定した定常運用段階かつ、一定の条件下でH-IIAの約半額にすることを目指している。また、打ち上げ頻度は年間最大6機を目指している。

 H3の開発は2014年から始まったが、とくにLE-9の開発に難航し、2度の計画見直しとそれにともなう打ち上げ延期を強いられた。

 昨年3月には試験機1号機が打ち上げられたが、第2段エンジンに着火できず失敗に終わった。JAXAと三菱重工などは総力を挙げて原因調査と対策を進め、1年足らずで「Return To Flight(再挑戦)」にこぎつけた。

 試験機2号機は、H3による軌道投入を実現し、その飛行実証によりH3開発の妥当性を検証することを主目的としている。

 また、試験機1号機の打ち上げ失敗よる先進光学衛星(ALOS-3)「だいち3号」の喪失を受け、打ち上げ失敗時の衛星喪失リスクにともなう影響を考慮するとともに、早期のフライト実証を行うことで、今後の打ち上げ計画への影響を最小化することを目指している。

 このため、試験機1号機のミッション解析結果を最大限活用できる機体形態として、試験機1号機と同じ「H3-22S」形態とし、ペイロードにはALOS-3と同等の質量特性をもつ「ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)」を搭載し、軌道投入(第2段エンジン第1回エンジン燃焼停止)までの飛行経路は試験機1号機と同様とした。

 また、2機の小型副衛星「CE-SAT-IE」、「TIRSAT」に対して、軌道投入の機会を提供する。

 H3ロケット試験機2号機は、2月17日9時22分55秒、鹿児島県にある種子島宇宙センターの吉信第2射点から離昇した。

 ロケットは計画どおり飛行し、試験機1号機で失敗した第2段エンジンも無事に着火し、軌道速度に到達した。そして、打ち上げから約16分43秒後にCE-SAT-IEを分離し、その後ももう一機のTIRSAT の分離も確認した。

 さらに、第2段機体の制御再突入の実施と、ロケット性能確認用ペイロード(VEP-4)の分離にも成功し、予定していた飛行実証ミッションすべてを完遂した。

 とくに、試験機1号機の打ち上げ失敗の原因とされた3つのシナリオのうち、2つについては、直近のH-IIAロケットにも対策を施し、飛行を通じて実証したが、「PSC2A系内部での過電流、その後B系への伝搬」とその対策については、H3固有のものであり、今回の打ち上げ成功で対策の実証が完了したことになる。

 打ち上げ後、H3プロジェクトのマネージャーを務める岡田匡史(おかだ・まさし)氏は「H3がようやくおぎゃあと産声を上げることができました」と語り、顔をほころばせた。

 また、「計画していた打ち上げシーケンスに対して、かなりいい線でシーケンスが進んだなと思います。飛行の結果としていい結果が出せました」とし、ミッションの点数についても「(100点満点で)満点です」、「成功しました」と力強く語った。

「これからが正念場」


 試験機2号機の打ち上げ成功により、2014年から始まったH3の開発は一区切りを迎えた。しかし、開発と、そして運用はむしろこれからが始まりである。

 くわえて、H3はまだ試験機である。とくに、現在のLE-9は暫定的な仕様の「タイプ1A」で造られており、3Dプリンターなどを活用した、当初の計画どおりのスペックをもつ「タイプ2」エンジンはまだ開発中である。

 H3のうち、最小構成の「H3-30S」の実現にあたってはタイプ2の完成が必要とされる。30は、高度約500kmの太陽同期軌道に4t以上の打ち上げ能力をもち、従来のH-IIAより最適かつ安価に打ち上げられるようになる。この軌道は、情報収集衛星や地球観測衛星など官需ミッションのほか、民間の衛星事業者でも需要が高く、30の早期の完成が求められる。

 また、これまでのLE-9の開発遅延と、試験機1号機の打ち上げ失敗により、すでに日本の宇宙計画は大きな影響を受けている。試験機2機の打ち上げを経て、3号機から運用を三菱重工に移管し、運用状態に入るという当初の計画も崩れた。今後、一日も早く定常的な運用段階に入り、打ち上げを重ね、遅れを取り戻していくこと、そのうえで商業打ち上げの獲得など、目指している目標を達成しなければならない。

 くわえて、H3-30Sは打ち上げ価格をH-IIAの約半額にすることを目指しているが、これは製造が安定した定常運用段階かつ、一定の条件下での機体価格の想定である。つまり、H3が目指す柔軟性・高信頼性・低価格の目標を達成するためには、タイプ2エンジンをはじめとする今後の開発と、定常運用への移行という2つを、早急に進めることが必要となっている。

 また、ロケットそのものだけでなく、種子島宇宙センターの施設設備の老朽化も進んでいる。H3に合わせて改修、新設されたものもあるが、H-IIAから流用しているものも多く、抜本的な対策は打たれなかった。今後、それらの維持・メンテナンスにかかる費用が、H3の打ち上げコストを圧迫する要因となる可能性もある。

 さらに、H3の開発が始まった10年前から、世界の状況は変化している。たとえば米国などでは、ロケット機体の再使用化による打ち上げ価格の低減と打ち上げ頻度の向上がトレンドとなっている。また、大型の静止衛星の需要が低迷する一方、小型衛星を数十機まとめて打ち上げる需要の増大化など、衛星の市場も変化している。H3の完成を待たずして、いまから大幅な改良、そしてH3の後継機についても考えていかなければならない。

 関係者との会話でも、「おめでとうございます」、「ホッとしました」という言葉のあと、「でも、これからが大変です」、「ここからが正念場ですよ」といった言葉がかならずといっていいほど続いた。手放しでは喜べない、「勝って兜の緒を締めよ」という雰囲気がひしひしと伝わってきた。

 宇宙基本計画工程表では、次の打ち上げはH3の3号機による先進レーダー衛星(ALOS-4)となる。今回と異なり、実用的な衛星の打ち上げであること、またALOS-4は大規模災害などへの対応に必要であること、とくに同世代の光学衛星ALOS-3の打ち上げが失敗したこともあり、是が非でも成功が求められる。

 一方、古今東西の新型ロケットは、最初の10機程度はたびたび打ち上げに失敗している。あくまで確率の話だが、H3もふたたび失敗する可能性はある。そのときに、今回以上のスピード感で打ち上げを再開させること、そして宇宙計画全体への影響を最小限に抑えられることにも備える必要があろう。

 何度もの蹉跌を乗り越え、H3はついに軌道に達した。これから待ち受けるさまざまな擾乱にどう立ち向かっていくのか、そしてその軌道を未来へつなぐことができるのか。H3の挑戦は始まったばかりだ。

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