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そこに"土"があったから。千年瀬戸物が生まれる町で、おとな女子旅を満喫。

 美味しい参鶏湯サムゲタンを食べていたら、「瀬戸に素敵なゲストハウスがあるから」と誘われ決まった瀬戸旅行。ほとんど下調べなしに訪れましたが、土から焼き物になるまで全ての工程がギュギュっと詰まっていて、町歩きと工場見学が地続き。これまで訪れたどんな町とも違う、暮らしと産業がそのまま文化になっている素敵な場所でした。

瀬戸物とは

 瀬戸物せとものは陶磁器の総称として使われることもありますが、基本的には瀬戸市で作られる焼き物を指しています。良質な陶土とうどがとれる瀬戸は、千年前から焼き物の産地として栄え、時代の要請にあわせて様々な瀬戸物を生み出してきました。

出典)「旅する、千年、六古窯 GUIDE BOOK」2019年発行

 瀬戸に近づくにつれ、いたるところで焼き物やかま、販売店、そして焼き物に関する博物館や展示施設が目に入ります。

瀬戸物を知る

窯垣の小径

窯で使われた道具だちが、石垣代わりに再利用されている。

 瀬戸に入って初めに訪れたのがここ、窯垣かまがき小径こみち。ここは窯元かまもとの住居が密集していたエリアで、石垣の代わりに窯で使われる道具が再利用された塀や壁が続く路地になっています。

大人女子3人で瀬戸にきました。ますきちに誘ってくださったYさん㊧と中学からの友人A㊨

 現在はひっそりとした散歩道ですが、かつては、このエリアで焼かれた瀬戸物を担ぎだす人、商人、働き手が行き交う賑やかな道だったらしい。

焼き物が垣根に埋め込まれている。
古く大きな家が多い。住まわれてる家もあれば、おそらく今は無人の屋敷も。
丸いのは「ツク」長方形は「タナイタ」という道具。窯の中で焼き物を重ねると気に使われた道具。
そこらに焼き物が転がっている。

 途中、資料館をみつけて立ち寄る。

窯元・寺田邸を改修して資料館に。
庭先に置かれるのは岩ではなく、もちろん焼き物。
関係者のネコ・・。
タイル張りのお風呂。
窯のなかではこのように効率的に焼き物が重ねられる。(という解説展示)
柱上のものが「ツク」、棚板は「タナイタ」。これらが小径の壁面に埋め込まれている。

 部屋を移ると突然古いテレビが。そう、昭和の産業ビデオが流されています。昭和の映像は、ナレーションの言葉遣いや声のトーンが現代とは違っていたり、その背後にある価値観の相違(産業イケイケドンドンで、「環境破壊」の概念は不在)がひしひしと伝わってきます。いい・悪いではなく、当時の価値観はこうだったのか、を体感できる貴重な機会。インターネット上では出会えない、ここでしか見れない映像なので、産業ビデオをみつけると必ず見入ってしまいます。

短調のクラシック音楽がBGM。登り窯にぼんぼんと薪を放り込んでいる。この後、ものすごい勢いでもえてゴウゴウと煙がたつ。最後は大河ドラマのような縦書き・毛筆で出演者や製作チームのテロップが流れる。まさに昭和の産業ビデオ。いい・・!

 窓全開の部屋でビデオにかじりついていたので、足が冷えてしまいました。この日、瀬戸市の気温は5度。静岡より断然寒い。

 足を温めるために資料館を出て、歩きだします。

 この小径、壁の装飾がかわいくて、目を離す暇がない。

あやまってるのか、お辞儀なのか。
おしゃれな招き猫も。

瀬戸蔵ミュージアムへ

 窯垣の小径では数百mの範囲内をウロウロと、1時間しっかり満喫。すでに瀬戸物の町の空気をどっぷり肺に詰め込んだので、お次は「なぜ瀬戸なのか」を知るべく、瀬戸蔵ミュージアムへ。
 ここで、瀬戸物が生まれた背景と歴史、そして陶磁器が生まれる工程をしっかり学べました。

資料館内には土から焼き物が完成するまでの工程が現場を再現して説明されています。道具も動いている。わかりやすい。
千年以上前の焼き物から現代のものへ、時系列に展示されている。
(写真のあたりは近現代)
14世紀に瀬戸で作られた狛犬。長すぎる足に笑いながら写真とったんだけど、瀬戸でみかける狛犬はすべてこのスタイルだった。なんで・・?

 資料館で見たものを書き出すとキリがないのですが、瀬戸と瀬戸物の歴史のポイントは3つ(に私が勝手にまとめました)。

  1. 世界的にみても良質な陶土がある(その土をみつけて窯を始めたのが「陶祖」伝説上の人物)

  2. 陶器は5世紀から作られているが、磁器は19世紀になってから(磁器の技術を九州から持ち帰ったのが「磁祖」実在の人物)

  3. 陶磁器の生まれる工程のすべてが瀬戸にある
    採土→製土→成形→乾燥・素焼き→絵付け→施釉→焼成(完成)→販売

 初日からとても情報量の多い一日でした。

まち全体が大きな瀬戸物工場

奥にみえる煙突はおそらく焼き物の窯

 二日目、招き猫の絵付け体験以外は無計画だったのですが、焼き物工場に迷い込んだり、採土される瀬戸キャニオンを眺めたり、焼き物を買ったり。結果的に初日に学んだ全工程を体験していました。すごいことだ…

招き猫の絵付け

素焼きでのっぺらぼうの招き猫に絵付けさせてもらう。
今年の秋にできたばかりの「STUDIO 894
招き猫や干支置物を手掛ける中外陶苑さんの施設です。

 こんな体験があるのか、と小躍りしたのが招き猫の絵付け体験。塗り絵(当日持って帰れる)コースと、釉薬かけて焼成したものを送ってもらえる本格的な絵付けコースが用意されています。もちろん選んだのは後者のコース。

真っ白のキャンバス
まずは鉛筆で下絵、その後、失敗の許されない絵付け作業。
顔料、筆どれも20年以上触れていない道具たち。ちゃんと描けるのか不安・・。
(撮影:Yさん)
一定の太さで綺麗な線を引くのはとっても難しい。
手書きで繊細な絵付けを施す職人さんたちへ敬意を払わずにはいられません。
三者三様のデザインになりました。個性がでるのも嬉しい。
焼き上がりは一か月後。届くのが楽しみです。

 絵付け中は三人とも無言。集中力がちょっとでも乱れると、すぐに線が外れていきます。お茶碗にさらっとひかれた線一本、これがまったく簡単にはいかないことを知ります。楽しくて、夢中になってあっという間に午前中が過ぎました。

 なお、絵付け体験の横には、招き猫ミュージアムがあるので、招き猫好きはこちらもおすすめ。広くはないけど全国の招き猫が集まっていて見ごたえあります。

数千点の招き猫が集まる異空間

陶器工場に迷い込む

住宅の合間に、突然工場があるのが瀬戸

 招き猫の絵付けに時間をかけすぎて、お昼ご飯まで微妙な待ち時間になってしまいました。友人Aが「近くに陶器屋さんがある」と言うので三人で向かうことに。ところがGoogle mapで示された場所につくと、ここはお店ではなく工場では・・?
 「あんたたちどうした?見に来たの?扉あけて中はいっていきなよ」突然、後ろから声が。驚いて振り返ると、おばあちゃんがニコニコ。ここがお店であってたの・・?と思いながら扉をあけると、工場!え?!

 中にいらっしゃったおじいさんが、見てけ見てけと案内してくれる。迷惑では?とか工場見学をいつもやってる場所だったのか・・?とか色んな思いがよぎるが、好奇心が勝ち、お言葉に甘えて見せてもらうことに。(工場好きとしては有難すぎる出会いでした。)

粘土をお茶碗の形にする(成型)
素焼き待ち
素焼きされた器に絵付け
この均一な美しい筆筋・・素人にはかけないんよ・・
最初に声をかけてくれたおばあちゃん。茶碗の底にゴム版でロゴを入れています。
見てっていいよ、と案内してくれたおじいさん。
炉の中もみせてもらった。温風が吹き出す。
こうやって陶器が生まれる。

 突然の訪問にも関わらず、優しく迎え入れてくださって、本当にありがとうございました。瀬戸旅の忘れられない思い出。望外の喜びです。
 ※いつも工場見学を受け入れているわけではなさそうなので、もしも工場を見たいという方は、イベントの日に瀬戸へ行くのが間違いなさそうです。来年は私も行きたい!

まちなかに溢れる瀬戸物

 お昼ご飯を食べようと歩いていると、そこかしらに瀬戸物が見つかります。そもそもすべての橋に瀬戸焼が使われているのだ。

まちを縦断する瀬戸川にかかる橋
様々なデザイン

 川沿いを歩く。

絵付けに使う筆。
筆立ての瀬戸焼、商品名が絵付けされている。
安価な日用品から、高価な職人技まで多種多様な瀬戸焼が売られている。
狛犬の足が長い・・
お昼ご飯を食べたお店の表側。
普通は食品サンプルとかでメニューを陳列すると思うんだけど、瀬戸物のオンパレードだった。
バス停の椅子にも、瀬戸物のネコ

 道を歩くだけでも、新旧様々な瀬戸物に出会える。ちなみに瀬戸市には「瀬戸焼で暮らしを楽しもう条例」なるものがある。すごい町だ。

採土の現場"瀬戸キャニオン"

 静岡に帰る前に、最後にどうしてもみたかったのが、採土の現場。Google mapでみるとスペクタクルな状況。瀬戸キャニオンの異名もあるそう。ぜひとも見たい。でもなぜか展望ゾーンがないとのことで、コツコツと地図を眺め、一か所だけ覗けそうな場所(窯神神社の駐車場)を発見し、寄ってきました。

黄色いショベルカーが動いていていました。現在も掘っているのかも。
欲を言うならもっと近づいてみたいですが、無理かもと諦めかけていただけに、自分達の目で採土現場を見られて満足です。

 神社の逆サイドからは、町を見下ろせます。

中央右寄りの近代的な建物は尾張瀬戸駅あたり。
左の黒い囲いがかかっている大きな建物が、瀬戸蔵ミュージアム。
現役の狛犬の足も長い。長さを強調している。

 瀬戸キャニオンをぶじに垣間見て、今回の旅は終了です。
 産地の凄味を体感した一泊二日。当初の無計画さからは想像できない、大満足の旅となりました。瀬戸市は、名前にたがわず瀬戸物の町でした。まだまだ見きれていない資料館や、歩いていないエリアがあります。絵付けだってもう少し修行して、再チャレンジしたい。2024年内の再訪を早くも計画しております。



宿やお食事のこと

 すっかり瀬戸物と瀬戸のまちの話しに終始してしまいましたが、宿、お食事とお土産やさんもとびっきりに素敵だったので、紹介させてください。

宿:古民家ゲストハウス「ますきち」

 そもそもは、Yさんから「素敵なゲストハウスに行こう」と誘われたのがきっかけ。正直に言うと、ゲストハウスは苦手意識があり、行くまではどきどき。ところが今回泊まった「ますきち」さんでは、そんな心配は無用でした。

 ちらちらと風花が舞う夕暮れに、ますきちさんに到着。

 趣きある玄関、入ると大きな招き猫がお迎え。宿の方が気さくに部屋のことやおススメのレストランを紹介してくださっているうちに、どんどん"ホーム"な感覚に。

縁側のある正真正銘の古民家です。
オーナーのパートナー・みくさんが旅をつづった展示。
旅情気分を誘う素敵な空間になっていました。
共有空間の広い和室。ここでお茶もいただけます。子供が走ってたり、のんびり仕事してる方もいたり、実家のような空間。人見知りも安心してうろつける雰囲気でした。

 間違いなく、 #泊まってよかった宿 です。こちらはストーリーがたくさん詰まった宿なので、行く前に読んでいくことをおすすめします。

モーニング:喫茶「ニッシン」

 ますきちさんで教えてもらった、おすすめのモーニングのお店へ。さすが愛知はモーニングの文化。朝から地元の方々も食べに来ていました。

シナモントースト
美味しい。快適な空間でついつい長居しそうになる。
店内に大きな招き猫が

お土産:ヒトツチ

 ますきちのオーナーご夫婦のお店。素敵なものばかりギュっと集まっていています。とくにお二人から商品のストーリーを聞いてしまうと端から全部キラキラしてきて、選びきれない!三人とも大満足のお買い物になりました。



 旅行記をまとめるとき、いつもはもっと絞ってそぎ落として3000文字以内(できれば2000文字ぐらい)の記事にしてるのですが、瀬戸旅行はあまりに思い出が多すぎて、削りきれませんでした。
 長文で読みづらかったかもしれませんが、瀬戸の魅力が少しでも伝わったなら幸いです。


追記(1/31)

 旅行から一ヶ月と少し経ち、絵付けした招き猫が静岡の我が家に届きました!一回りギュッと焼き締まり、ツヤが出て、顔料の色も鮮やかになり、一層かわいい招き猫とたちのご到着。この日が楽しみで、1月下旬にはいってから指折り数えていました。クリスマスのように。
 瀬戸旅行は、1度で2度楽しめるのです。

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