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ポロを食べるときはスプーン?右手?それとも、、、

プロフ、ウイグル語では「ポロPolo」と言います。カシュガル方言では「ポラァ」と聞こえることも。

あ、こんにちは。「グリシェンカフェ」のグリシェンです。マルコ・ポーロに恋したことからウイグルにハマり、27年の間に幾度となくウイグル・シルクロード各地へ出かけています。今回から計4回、「週刊プロフ」に連載しますのでよろしくお付き合いください。

マルコ・ポーロに憧れ、彼のたどった道を、逆ルートで東から西へ旅しようと心に決めた15歳の夢。今と違いネットなど無い時代、テレビや雑誌、写真集などを眺めては、東西の文化が交流したシルクロードに思いを馳せるのが精いっぱい。中でもカシュガルという街は、響きの美しさと様々な民族が交錯する「人種のるつぼ」として、私の心に強い印象を残していました。
 ウイグル・カシュガル初訪問は、夢を抱き恋い焦がれてから10年以上経った1991年夏のこと。まだソビエト連邦があった時です。(帰国して一週間後にソ連崩壊のニュース。)

 当時、羊のケバブ以外、食事に関する予備知識が全くなかったため見るもの全てが珍しく、手あたり次第口にしました。その中にはもちろんポロも!大鍋に入っている黄色の物体、しかも大量の油の上に米が浮いているような代物で一瞬躊躇。周りを見ると、おじいちゃんたちがゆっくりと丁寧に右手で口に運んでいます。言葉が分からないので指さして注文すると、私の顔を見た店主がポロと一緒にスプーンを付けてくれました。外国人には手で食べるのは無理だと判断してくれたのでしょう。初めて食べる黄色人参と羊のコラボ。正直なところ、味はよく覚えていません。ただ、食べ終わった皿には油がたっぷりと残っていました。

(※ 手でポロを食べる男たち)

 その後、93年、95年と再訪。96年にウルムチの新疆大学で一夏を過ごす機会を得、お世話になった先生のご自宅で「おもてなしポロ」を初めていただくことになりました。
  夫婦そろって大学の先生で、留学生にも慣れている夫人が用意してくれたのは少々油控えめのポロ。レーズンなどのドライフルーツやナッツも入ったポロはもてなし用の最高級品。しかも、その家の主である教授が、客人である私たちの前で、炊き込んだ肉の塊をナンの上で切り分けてくれるという正式スタイル。そして、「伝統的な食べ方はこうだよ」と、自ら右手で上手に口に運ぶしぐさを披露。私たちも、と思いきや、「あなたたちはこれを使いなさい」と、夫人が用意してくれたのはスプーン。
  結局、まずは右手で食べてみて、その後でスプーンを持つことに。慣れないので右手で食べるのは大変です。本当に、指の間からポロがポロポロ落ちるのです(←すみません、おやじギャグになってしまいますが、本当にそうなのです)。けれど、手で食することで体中の感覚が目を覚ますような得も言われぬ口福を感じられるのは確かです。

(※ 肉を切り分けるのは主の役目)

(※ 手食を体験した後、結局スプーンで食べました。22年前、若き日のグリシェンです。)

 ウイグルを訪れるのは夏~秋が多いのですが、大抵どこかで結婚式が行われています。都市部の披露宴はレストランなど大きな会場で行われますが、ちょっと郊外だと自宅で伝統的に行われます。新郎の家も新婦の家も、たくさんの客が入れ替わり立ち代わり押し寄せます。料理作りも大仕事、雇われたポロ作りの職人たちもいますが、親族の女たちは皆大忙しです。
 ある年、カシュガルから40Km北のアトシュという街へ行こうと思い立ち、乗り合いタクシーに乗りました。ドライバーも乗り合わせた客たちもウイグル人。隣合わせに座った女性から「漢族なの?」と聞かれ、「日本人です」とウイグル語で答えると、タクシ―の中は一気にテンションが上がり、あれこれ質問攻めになりました。ウイグル人も中央アジアの人々も日本贔屓であることは、皆さんもよくご存じですよね。
隣合わせになった女性から、ちょうど二日後に妹の結婚式があるから是非いらっしゃいと誘われ、電話番号を書いたメモをもらいました。そしてのこのこ出かけることに。
 バスで辿り着いた郊外の村に、その女性の家はありました。広い土間のある田舎ならではの大きな屋敷、たくさんある部屋のひとつが花嫁を含む女部屋です。西洋風の白いウェディングドレスを纏う美しい花嫁。絨毯の敷かれた広い部屋には女性客がぎっしり!

(※ 女部屋。男たちは別の部屋で饗宴。)

 促されるままに女性客の間に座ると、目の前にはナン、季節のフルーツ、焼き菓子、ドライフルーツやナッツ、そしてしばらくすると、結婚式には欠かせないポロとコルダック(肉と野菜の煮物)が運ばれてきました。ポロは二人に一皿、コルダックは一人分ずつお椀に入っていました。見渡しても、スプーンもお箸もありません。そうか、手で食べるのねと思いポロを右手の人差し指、中指、親指で食べようとしますが、やはりなかなかうまく食べられません。手は油まみれです。コルダックは手で食べるにはまだ少々熱すぎました。
ふと目をやると、年頃の女性たちは右手にスプーンのような道具を持ってポロを口に運んでいます。コルダックの入った器を持ちあげて、やはり何か道具を使って食べています。何?何を使って食べているの?―――と、よくよく見ると、ナンです!!

ナンでポロを食べる!ナンでコルダックを食べる!これは衝撃でした!!なるほどー!これなら手も油まみれにならないし、少々熱い食べ物でも簡単に口に運べます。しかもナンは目の前にてんこ盛りです!ナンはポロの油を吸い、コルダックのスープを吸い、最後に食べるときは旨みをたっぷり含んだ最高の味になっています。ナンとポロとコルダックのマリアージュ。正に口福です。

ポロを食べるときは、スプーン?右手?それともナン?皆さんはいかがですか?

「グリシェンカフェ」オーナー グリシェン中川裕美

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