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プロフのきほん その2

中央アジアにおける代表的な料理であるプロフは米の他に羊肉とニンジンを使ったものである。これにニンニクやヒヨコ豆などの豆類、あるいは干しブドウやバーベリーなどが加わり味付けのアクセントとなる場合もある。中央アジアに隣接するイランではディルなどのハーブを混ぜ込んだりするなどバリエーション豊かなポロを見ることができるのが中央アジアとの違いである。もともと同じペルシア文化圏に属するイランのポロと中央アジアのプロフでは使われる材料が異なるのは地域性であると言うことができる。

今回の週刊プロフでは中央アジアの地域性から見たプロフを取り上げてみたい。前回の週刊プロフでも触れたが、中央アジアとひとくくりにしてみても気候風土や文化は南部と北部では大きく異なっている。中央アジアの南部は古来より「オアシスの道」といういわゆるシルクロードに代表される東西交流のルートであった。現在のウズベキスタンのサマルカンド、ブハラ、ヒヴァといった都市は砂漠のオアシスである。オアシスの道はこのようなオアシスを結ぶ道である。この地域における生業はペルシア系のソグド人に代表される定住民による農耕と交易であった。中央アジアの南部のような砂漠地帯では湧水のあるオアシスのほかには天山山脈やパミール高原の雪解け水に発するアム・ダリアやシル・ダリアといった河川の流域でしか農耕を行うことができない。少しでも耕作可能な土地を増やすために、この地域では灌漑技術が発達した。中央アジアの米はこのような環境で作られている。

特に中央アジアの米どころとして知られているのはフェルガナ盆地東部にあるキルギス領のウズゲンである。ウズゲンは山岳部の雪解け水が平地であるフェルガナ盆地に流れ出す境い目にある場所である。豊富な水を得られる平坦な土地でまさに稲作に適した場所である。ここで産するウズゲン米は赤米でキルギスのみならず中央アジア全体で珍重され、プロフに適した美味しい米だとされている。

プロフに欠かせない材料としてはニンジンがある。ニンジンはオレンジ色のものと黄色のものが見られるがプロフに用いられるのは黄色いニンジンである。オレンジ色のニンジンはサラダに使われるという。プロフには大量にニンジンが使われるが、そもそもニンジンはアフガニスタン周辺が原産地とされるため、アフガニスタンに隣接する中央アジアでは比較的よく見られる野菜である。ウズベキスタンのタシケントにあるチョルスー・バザールは中央アジアでも規模の大きいバザールであるが、ここの野菜売り場ではニンジンが当然のように売っているのだが、あらかじめプロフ用に細長く切ってあるものが売られている光景を見ることができる。中央アジアの料理は手間暇をかけて作るものが多く、料理を作っている場に立ち会うと、美味しいものを作るためには手間を惜しまないのが当たり前のように思えてくる。しかし、このように下ごしらえしたニンジンが売られている光景を目にするとやはり面倒な作業は少しでも楽をしたいのではないかという人間味を感じられて微笑ましく思うのである。

もうひとつ、プロフに欠かすことのできない材料は肉である。プロフに使われる肉は羊肉が使われることが多い。中央アジアでは羊肉は牛肉よりも人気があり美味しいとされている。現在ではバザールでは肉はバザールで簡単に手に入る。先に紹介したチョルスー・バザールには印象的なドーム屋根があるのだが、ここは近年改装されて巨大なドームに覆われたフロア一帯はすべて肉売り場になった。二階から見下ろすとその姿は壮観である。

ところで、中央アジアのオアシス地帯は冒頭に挙げたとおり河川の流域かオアシスの湧き水など限られた水源による灌漑農業が中心で耕作が可能な地域はそれほど広くはない。農家で飼育できる羊など家畜の数は極めて限られる。では料理に使われる大量の羊はどこから供給されるかというと、中央アジア北部のステップ(草原)地帯に生活する遊牧民の姿が浮かび上がってくる。中央アジアでは南部のオアシス定住民とステップの遊牧民との間には密接な関わりがあった。この関わりについての詳細については次回の週刊プロフで触れていくが、中央アジアでは定住民たちは遊牧民との交流の中で美味しい羊肉を手に入れてプロフに使ってきたのだろう。

ここまで述べてきたとおり、プロフに使われる米とニンジンと羊肉という特徴的な食材の組み合わせは、まさにこの中央アジアという地域性から生まれたご馳走料理であると言えるのかも知れない。

先崎将弘 / 中央アジア食文化研究家・おいしい中央アジア協会


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