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【アジアカップ】まさか、ではなく必然の敗北~個人の能力に頼った強さの限界

先日のアジアカップグループリーグ第2戦、日本代表はイラク代表に2-1で敗れました。

これは偶然でも、まぐれでもなく、必然です。
しかもこれは、この前のワールドカップ、いや、その前に予選、前回のアジアカップのころから不安視されていたことが、改めて露呈されたに過ぎないのです。


◆アジアのレベルは上がっている

断っておきますが、決してイラク代表を弱いチームとは思ってはいません。
むしろ、今回は戦前から不気味だと警戒していました。

選手個人の能力も高く、例えば、17番のアリ・ジャシムは若干19歳ながらチームの攻撃を牽引し、前線と中盤を巧みにポジションチェンジしながらチャンスを作ります。彼は14歳でプロになった逸材です。
それ以外にも、マンチェスター・ユナイテッドの下部組織出身のジダン・イクバル、国際Aマッチで計16得点とゴールを量産するエースストライカー、モハナド・アリなど、イラク国内の情勢が未だ不安定ながらも、海外で活躍する選手が育ちつつあります。

監督はスペイン人のヘスス・カサス氏。
ルイス・エンリケ監督がバルサBを指揮していた頃からの腹心で、スペイン代表においてもアシスタントコーチを務めていました。

2022年の11月にイラク代表の監督に就任すると、2023年1月に行われたガルフカップでは、サウジアラビア代表やカタール代表といった強豪国を倒し、無敗で優勝、さらには同年9月に行われたタイサッカー連盟主催のキングスカップでも優勝し、既にイラク代表に2つのタイトルをもたらしています。

相手によって4バック、3バック、5バックと変化させていくなど、柔軟にフォーメーションや戦術を変えてくる監督で、非常に戦略的です。

◆戦前から不気味だったイラク

今回の試合においても、攻撃陣の主力と目されていた、ダニーロ・アル・サイード選手が急に代表を外れたこと(後に家庭の事情によるものと判明)に関してもあまり動じていない、むしろ影響を感じさせない態度を取るなど、余裕を感じさせ、何か仕掛けてくるのではないか、という予感がしていました。

実際、イラク代表はメンバーを7人も入れ替えてきました。
その中でも気になったのは、初戦では控えだった18番のアイマン・フセイン選手。
体格も非常に大きく強い、日本人が苦手とするタイプのFWの選手です。
実際、彼が得点を決める事になります。

◆まるでデジャブのような南野選手の起用法

対して、森保監督は選手の初期配置の時点でまたやらかしていました。
前回のワールドカップ予選の際にも同じことをして失敗していたにもかかわらず、南野選手を左サイドに配置したのです。

以前に南野選手の特徴について語った記事については、以下を参照していただくとして、

彼はサイドに張って個人技で勝負するタイプではなく、ディフェンスラインの裏に抜けるのが得意な選手なので、初期配置がどうあれ、自然とピッチの中央寄りでプレイする事が多くなります。

もちろん森保監督としても、意図があっての配置であったであろうと推測しますが、これがのちに大きく災いしてきます。

◆久保選手に対する徹底した対策

そして、トップ下に配置されたのが久保選手でした。

このポジションは久保選手にとって最も得意な場所です。
久保選手は視野の広さ、足元の技術の高さは代表でもトップクラスで、MFとDFの間にあるバイタルエリアで常にポジションを取り、後方からのパスを受けて失わずにチャンスメイクします。
それを生かすために1トップ下に置かれていました。

ですが、相手もそれを分かった上で、あえてそこに誘い込み、センターバックの前進守備と中盤の選手のプレスバックによって、最大4人もかけて挟み込んで、一人抜いてもまた人が出てくるという状態にして潰しにかかってきたわけです。

◆序盤は連携が悪く、ビルドアップが上手くいかない

ディフェンスラインの谷口選手経由で久保選手にうまくパスを当てられそうな場面もありましたが、何故か消極的になってサイドに散らしてしまい、フリーで受けられないサイドバックはまた後ろに戻し、さらに守田選手が下がってボールを受け、前線にロングボールを出すも、約束事もロジックもない為、チャンスに繋がらない。

それでも、序盤は浅野選手がディフェンスラインの裏に飛び出し、久保選手がいるバイタルエリアにスペースが空く時間もあったのですが、徐々に浅野選手が下がってボールを受けるようになって、久保選手と共に挟み込まれる形になって、自由を奪われていました。
そこに左サイドの南野選手が内側に絞ってくると、バイタルエリアは過密状態になってしまいます。

たまらず久保選手はサイドに流れて活路を見出そうとしますが、イラク側の対策は万全で、簡単にクロスを上げさせてくれません。
それは伊東純也選手に対しても同じでした。

◆開始直後、いきなりの失点

一方、イラク代表はサイドを巧みに崩しにかかります。

イラクのサイドハーフが内側に絞り、日本の選手を引き付け、その空いたスペースにサイドバックが走りこむ。
サイドバックにボールが渡ると、当然日本側のサイドバックがマークにつきますが、今度は内側に絞ったサイドハーフがその裏に飛び出してくる、つまり、日本のサイドバックの選手は相手のサイドバックとサイドハーフの2人を1人でみなければならない状態になり、数的不利になります。

イラク代表は序盤からこの形で何度もチャンスを作り、そして前半4分にいきなり失点します。

◆フリーの選手を生かせない

その後、守田選手がディフェンスラインまで下がってビルドアップに加わり、谷口選手が左サイドに流れ、そしてもしかしたらここが森保監督の意図するところだったかもしれませんが、その状態で南野選手が内側に絞る事で、左サイドバックの伊藤洋輝選手の前に大きなスペースが生まれます。
日本代表は徐々にそれを生かしていく事になります。

もしここで、内側に絞った南野選手とトップの浅野選手が縦関係を作り、どちらかが下がり、どちらかが上がるという運動を続けていれば、トップの選手に積極的についてくるイラクのセンターバックの守備にもほころびが生じたでしょう。
ところが、2人が揃って飛び出してしまい、そうなると伊藤選手のパスコースは限定され、相手にも読まれて防がれてしまいます。

その後も伊藤選手は何度もフリーになりますが、チャンスにつなげる事ができません。

◆痛恨の追加点、求められる修正

そして前半ロスタイムに、またしてもサイドで数的優位を作られるという、同じ形で失点します。
しかも、トップと中盤の選手が縦関係を作る事でフリーになるという、日本側ができていなかった事を逆にやられてしまうという屈辱的な形でした。

ここで前半が終了。日本は2点のビハインドを背負い、後半からは2得点のアイマン・フセイン選手に苦しめられた谷口選手に代わり、富安選手を投入。
ところがイラク側がフセイン選手を交代させたため、対策は後手に回りますが、それでも富安選手の守備能力はアジアのレベルを超えており、後半に期待が持てました。

さらに南野選手のポジションの問題に気づいていたのか、後半になって森保監督は、左に伊東純也選手、南野選手をトップ下に、久保選手を右サイドに移すことで状況打開を図ります。
これは非常にいい手でした。

◆状況を打開しかけるも、余計な一手

両サイドに突破力のある選手を置き、そして南野選手が上がれば浅野選手が下りて来て、浅野選手が上がれば南野選手が下がる事でパスコースを限定させない。相手のディフェンスは徐々に崩れていきました。

その効果は早速現れ、後半11分に左サイドを抜け出した伊東選手からの折り返しを浅野選手が受けようとして倒され、PKの判定を受けました。
惜しくもVARによって取り消しになりましたが、判定自体は五分五分(人によって判断が分かれるという意味で)のところだったので、仕方がありません。が、非常に良い流れが生まれていたと思います。

ところが、森保監督はここで余計な一手を投じてしまいます。
久保選手と浅野選手を下げて、堂安選手、上田選手を投入したのです。

もちろん交代選手に罪はありません。
例えば、堂安選手はバイタルエリアに入って勝負できる選手ですし、強い気持ちを前面に出したプレーで状況を打開しようと奮闘していました。

上田選手もペナルティエリアの中で非常に怖い存在になりえる選手ですし、相手ディフェンスに強烈なプレッシャーを与える事ができます。

しかしながら、後半直後にポジションを修正する事によって状況は好転しつつあったのも事実なので、もう少し辛抱できなかったのかなと、正直残念な思いでした。

◆前田選手の孤立、噛み合わない攻撃

そしてこのタイミングで、イラク代表はさらに陣形を変え、またしても日本代表は攻略法を探らなければならなくなります。

ここで投入されたのがスピードを生かした飛び出しが得意な前田選手。
彼は左サイドから斜めに裏に飛び出してボールを受ける役割を担っているように見受けられました。
ところがその意図が共有されていないのか、スタートを切ってもボールが出てくる気配がありません。
イラク側が前線の人数を減らし、5バックを敷き、スペースがない状態で前田選手を投入し、そのようなタスクを与えた事には疑問を持たざるを得ないです。

まるで攻撃意図がかみ合わないまま時間は刻々と経過し、残り時間はわずかとなりました。

試合終了間際にコーナーキックから遠藤選手が1点を返すも、そのままのスコアで試合は終了しました。

◆久保選手を生かすのなら

今回の敗因を考えていきたいのですが、1つは選手の起用法とそれに伴った約束事の無さ、そしてもう1つは何をするかを明確にすることができていなかったことにあると思っています。

久保選手をあの位置に置くのであれば、当然相手が対策を講じてくることも予想できたはずです。
にもかかわらず、久保選手がボールを持った際の他の選手のポジショニングには何も手が加えられておらす、ただただ久保選手が単独で突破せざるを得ない状態が続きました。

例えば、久保選手がボールを持った際に、後ろにいるダブルボランチの守田、遠藤両選手がフォローに向かえば、久保選手にプレスバックに向かう相手の中盤の選手もそちらをケアせざるを得なくなり、必然的に久保選手がフリーになったはずです。

もちろんそういったフォーメーションの調整などを検討する時間がほとんどなかったとは思いますが、元々森保JAPANには約束事と言えるものがほとんど存在せず、選手個人の能力と判断に委ねられています。
その結果、バイタルエリアで久保選手を生かす策は失敗に終わりました。

◆ボールを保持するのか、ロングボールを生かすのか

後方からビルドアップの際に、相手のプレッシャーに対してボールを保持する事が怖くなって、日本の選手がロングボールや安易な横パスを選択し、ボールを奪われるシーンが何度かありました。

ロングボールで勝負するのは相手の方が分がありますし、久保選手を起用した意味がありません。
それに、相手もパスミスを誘うためにプレッシャーをかけているわけですから、そのプレッシャーに負けてはいけません。
ボールを保持するならする、しないならしない、どっちつかずではいけません。

それでも1人戦っていたのが久保選手です。
逆にボールを保持する事で、相手を引き付けたり、ファウルを誘うようなプレーを心がけていました。

◆まだ戦えた久保選手を下げる愚策

そして、先ほども言いましたが、あのタイミングで久保選手を下げたのは、早すぎたと思います。
浅野選手が決めきれなかったとはいえ、伊東選手を左に移し、右に久保選手、真ん中に南野選手を置いた後半直後のポジション修正によって、この試合で最も期待できる時間帯が続いていたので、もちろん、交代で出た選手に問題があったというわけではありませんが、もう10分堪えきれていたら、もっと早く点を決められたかもしれません。

できればその形を最初から見たかったですし、交代策も含めて森保監督の采配には疑問が残ります。

◆GKだけに責任を問えない、日本代表守備陣のミスの多さ

ベトナム戦に続いて、今回も鈴木彩艶選手のミスが失点のきっかけのように言われていますが、そもそも前回の試合においても失点の原因は彼だけではありません。

例えば、ベトナム戦の1失点目については、ニアサイドの南野選手が相手選手につられて動いてしまって、スペースを空けてしまった事が原因ですし、2失点目も日本の守備陣全体がボールウォッチャーになってしまって、裏に抜けた相手選手を見逃していたのが発端でした。

そもそも彼を起用した時点で、経験値の低さは織り込み済であるべきですし、アジアのチーム相手に4失点もしておいて、ゴールキーパーだけが悪いというのは、もはや言いがかりですし、ビルドアップの問題も含めて、チーム全体の課題と認識するべきです。

◆気持ちでは負けていなかったが・・・

選手たちが気持ちで負けていた、なんて精神論を語る人もいますが、僕はそうは思いません。
今の日本代表にそんな慢心はないと信じています。

それよりも、以前から主張している話ですが、監督が攻守の基本的な約束事も示さず、ただただ個人の能力に依存した戦い方には限界があります。
ワールドカップではそれが上手く言ったように見えましたが、アジアレベルでもそれが通用しなくなってきた、それに気づけていなかった、今回の敗戦の原因もまさにそこにあります。

活躍が期待された三苫選手も、ケガからの復帰が未定な状態では、現在起用可能なメンバーで、今回浮き彫りになった課題に取り組んでいくしかありません。

◆予選通過が目標ではない

恐らく次のインドネシア戦には勝利し、予選は通過するとは思いますが、グループ1位通過は絶望的でしょう。

2位通過となれば、決勝トーナメント1回戦でいきなり韓国、それに勝利しても次は恐らくイランと、連続で難易度の高い強豪チームに当たる組み合わせになってしまいます。
どんな相手にも勝てばよいとはいえ、決勝までに消耗してしまうのとそうでないのとでは大きな違いがあります。

そもそも、日本代表はあくまで優勝が目標であって、予選は通過点でしかありません。
このようなところで足踏みしているようなチームが、アジアの頂点を取れるとは到底思えません。

果たして、この敗戦を糧に、日本代表は新たなステップを踏めるのか、期待も込めて見守っていきましょう。





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