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【コラム】知り合いに彼を略奪された夏の話

19歳の時、今の夫の次に好きだった恋人がいました。
同じアトリエに通っていて、とても絵の才能がありそして魅力的な思考の持ち主でした。

19歳のその年は私の人生の中でも大きく自分が変化した時期でもありました。周りの同年齢の友人達がガラッとかわり、芸術に目を向けた人ばかりになったのです。希望の道はそれぞれ違っていましたが、芸術という面においては同じでした。まだまだ物の見方や表現の仕方が分かっていない時期で皆、自分の中をこじ開けて覗いては自分の中にある“何か”を探していました。人によっては自分の中からえぐり出すように表現と自分を探求していました。彼らの中にいると自分がごくごく普通の、何にもない人間に思えて悔しくてたまらない気持ちになったものです。

今から思えば悔しいという気持ちになる事自体に若さを感じますが当時の私は何かを必死で出そうともがいてもいましたし、それがとても充実していたのも確かです。 周りにいる全ての人と話す事が楽しく、悔しく、そしてその度に新しい捉え方、見方がある事の発見に感動していました。むさぼる様に人の感覚にシンクロし、取り入れては捨て、取り入れては吐き出しを繰り返していた様に思います。

そんな中でその彼はひときわ際立っていました。
彼の父親が芸術家であったので小さなころから感覚や捉え方が鍛えられていたのでしょうね。私はもう、なんていうか。滅茶苦茶惚れたんです。そしたら彼も私を好きになってくれたので私たちは恋人同士になりました。それから世界は更にどんどん広がるし、彼の友達とも仲良くなりまるで兄弟のように皆が仲良く刺激的な日々でした。この頃の様な刺激的な日々はもうないでしょうね。青春ですね、青春。笑

ところが、2年程経ったあたりに私のクラスメートの女性に彼を略奪されちゃったのです。彼女は少し影のある美形の女性でしたが少しやんちゃな感じの面白い女性でした。私の女友達は激しく彼女を非難しようとしましたが、そんなことに何の意味もないのでやめてくれとお願いしたのを覚えています。彼女に対して何の嫉妬もなかったのです。彼女が悪いとも思いませんでした。ただ、彼が私から離れていくのがたまらなく辛かったのです。

彼が好きになったのだから仕方ないし、追ったところでどうにかなるわけもないと何故か理解しちゃっていたのです。自分の気持ちに整理をつけるしかないと。

滅茶苦茶惚れていたからできたのかもしれません。彼を尊重できていたのでしょうね。偉いな、私。笑

彼がいなくなったのは夏が始まる頃で、私は気持ちに整理をつけるために、ひと夏中、お祭りのバイトをすることにしたのです。いわゆるテキ屋さんですね。夏祭りが大好きだったので彼がいなくなった喪失感を紛らわし、終わった事だと受け入れられるように。

近隣の県の行ける範囲のあらゆるお祭りに行きました。盆踊りや花火大会。神社のお祭り。私のバイトの選択は正解でした。テキ屋さんの世界を覗いて触れてドキドキし、今までとは違う方向からお祭りの高揚感を楽しめました。

ひと夏中、宵の祭りに酔ったおかげで失恋の痛みは軽症で済みました。本当に別れたのが夏の始まりで良かったと秋口に思ったくらいです。

あんなに彼の友達と仲が良かったので彼から離れたらその友達も失うのかと思っていましたが、そんなこともなく、彼の話題にはあまり触れない様に彼らは私との関係も崩すことがありませんでした。私はラッキーだったのかもしれません。何故なら、多くを失わず、ただ彼ひとりを失っただけだったからです。

19歳という多感な変わり目に出会った才能豊かな彼。
年齢のせいもあると思いますが今の夫に出会うまでは一番好きな人でした。
情熱的で高揚感と充実感と楽しくも切ない恋を私は小さく折りたたんで心の引き出しの奥にしまったのです。


ところがです。


1年半程たった後、私たちは思いもかけず復縁したのです。
これには私も戸惑いましたが、
それはまた、別の機会にお話しするかもしれません。笑


皆さんは心の奥に小さく折りたたんでしまってある、
大事な恋がありますか?


では。Ciao!


ヘッドのイラストは骸骨にしあさん。本当に世界観が好きです♥


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