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【対談#4前編】NPO×チャレンジフィールド北海道 「社会をより良くするために、私たちにできること」

 「将来世代のために、希望あふれる地域社会を共につくりたい」
「人と組織と地域が『自分ごと』として関わり、共に成長したい。」
そのために私たちができることとは、どんなことでしょうか?
 
第4回の対談相手である久保匠さんは、現在、北海道NPOサポートセンターで事業執行理事を務めるほか、“ソーシャルセクターパートナー”としてここには書ききれないほど多様な組織や団体の取締役やアドバイザー等を務めています(もちろんチャレンジフィールド北海道の産学融合アドバイザーも)。
北海道の課題解決に向けてソーシャルビジネスの成長のために力を注ぐだけでなく、社会課題の根本解決に向けた仕組みづくりにも奔走する久保さんの取り組みは、チャレンジフィールド北海道がめざすべき姿と大きく重なります。自分のスキルを発揮し活躍する久保さんがめざしているものとは?そしてそんな久保さんがどうやって今の場所にたどりついたのか?チャレンジフィールド北海道の山田総括との対談から、社会のシステムチェンジ(構造改革)のために私たちができることについて考えてみたいと思います。

前編では、久保さんのこれまでの経験、活動や思いを、後編では、さらに深掘りした対話をお届けします。

―――――久保さんはもともと福祉の現場にいたそうですが、何がきっかけだったのでしょう?

久保さん(以下久保):両親の仕事が福祉系であったことや、自分自身が8歳の時に発達障害の診断を受けていたこともあって、もともと福祉の仕事に興味を持っていました。進学先の大学で、ゲスト講義に来られたNPOの方の話を聞いたことがひとつの転機でした。その方自身も車いすユーザーながら、地域の障がい者へのヘルパー派遣事業を行っていました。当事者自身が同じ立場の人を支援する姿やその仕事に感銘を受け、その日に名刺をもらい、次の日にはそのNPO事務所に行って、その後の学生時代はずっとヘルパーをしていました。
 
山田総括(以下山田):当時からアグレッシブだったんですね(笑)。
 
久保:大学1年生の時に3.11が起き、その後、災害系NPOにも所属していました。大学時代は週5日でNPOの活動をしていましたね(笑)。
 
山田:その当時はどんな思いを持っていたんですか?
 
久保:現場のプロになりたいと思っていました。でもやっていくうちにいろいろな課題が見えてくるんですね。例えば障がい者支援事業の場合、障がいの当事者への支援は制度にありますが、それを支える家族への支援は制度の対象にならない場合が多いんですね。
発達障害の支援をしている親は、例えば自分の子どもとの関わり方がわからず心が病み、追い込まれしまう方もいます。でもそうした方は支援のはざまに落ちてしまうんです。そんな時、見捨てることなんてできないからと無償で支援するものの、やはりじり貧になって中途半端なところであきらめざるを得ない、という場面も見てきました。

自分が完璧だと思っていたNPOの課題を目の当たりにして、若かった私はショックを受けました。でもそこでNPOにも経営があり、人・モノ・金をしっかり入れて循環させることが大切だということを知りました。それならば資金調達のプロフェッショナルになろうとファンドレイザーの資格を取り、大学3年生からファンドレイザーとして活動してきました。
 
山田:実体験から自分のめざす方向を決め、その動機付けが定着しているところがすばらしいですね。

―――――ファンドレイザーとしての活動からどんなことを学んだのでしょう?
 
久保:ファンドレイザーとして全国で戦略策定などの仕事に関わるなかで、社会課題解決を担っているのはNPOだけではないことに気が付きました。行政も、小さな田舎の福祉担当課しか見えていなかったけれど、省庁や自治体も含め、いろいろな組織が制度や法律という切り口で社会をより良くしようとしている。
MBAで学んだ時も同じことを感じました。同級生には大企業のミドルマネージャークラスの方がたくさんいたんですが、そういう人たちとディスカッションする中で、売り上げを上げることはプロセスであって、その先に何を結果として残すかが大切であり、それはNPOも大企業も同じである、ということを学びました。課題解決をするのにセクターは関係無いんです。
 
山田:それぞれ組織は背負っていても、結局は個人の思いが大切だと思いますよね。私は日本の大学院を卒業後に就職し、その後アメリカに留学、帰国後には国立研究所に就職、その後現在の企業に転職、はたまた子どもの学校のPTA会長になったりと、様々な組織やセクターに広く関わってきました。だからこそどんな場所にいても、何かコトを起こそうとする場合には、どのような御旗を立て、どのような人に集まってもらうかがいちばん大事だと考えています。
 
久保:今まで分かち合えていた人とも、組織を背負っていたら理解し合えなかったかもしれないです。価値を広げるとき、組織が弊害になるのはもったいないですよね。組織と個人を往復して、“着る服”を自由に選びながら、自分とまわりとの関わりを自由に設定できるといいと思います。

―――――北海道に戻られたのは、どんなきっかけだったのでしょう?

久保:東京でファンドレイザーとしての仕事の他にも、ソーシャルベンチャーの取締役や大学の非常勤講師など、とにかくいろいろやったのですがどれもおもしろくて。何がベストな働き方かと考えた時、独立でした。また、プラットフォーマーとして広くあまねく活動するのもいいけれど、かつての自分のように当事者意識をもって熱くなれるフィールドが欲しいとも思っていました。それをどこでやるのか考えた時、やっぱり自分を育ててもらった北海道だなと。
 
山田:北海道に戻って、どんなことに取り組もうとしていますか?
 
久保:北海道に戻ってきてからフリーランスとしてコンサル業など、個別のプレイヤーの力を最大化する仕事をしていました。でもそれは対症療法に過ぎず、その先の社会課題の本質的な構造に働きかけなければいつまでたっても根本解決にならないんですね。抜本療法、つまりシステムチェンジもできる人材になりたいと思い、北海道にUターンをして、全国をフィールドにした「ソーシャルセクター・パートナー」になりました。
今は北海道NPO総合戦略の策定に携わっています。北海道にはNPOが約2,000カ所以上あり、その取り組みも様々ですが、NPOの社会的価値や役割というものは1998年のNPO法制定時から25年で大きく変わりました。NPOが今後何をやるべきか、どんな可能性があるかについて言語化し、社会還元していくしくみや、志を同じくするNPOをつなぎ、インパクトを出していきたいと思っています。
 
山田:その総合戦略策定では、2,000カ所以上のNPOをまとめていくのですか?チャレンジフィールド北海道ではさまざまな活動や組織を“まとめる”“統括する”のではなく、それぞれが自発的に活発に動くことを支援したいと思っています。
 
久保:そうですね。それは私たちも同じで、2,000カ所以上のNPOが目的に応じて協働できる関係性をつくりたいと思っています。社会をより良くしていくことについて、話し合って思いを同じにしていくことや、関係性をつくり、みんなで少しずつ貢献し合う・協働することを当たり前にしていきたいと思っています。
 
山田:NPOだけに限らず、株式会社や一般社団法人など、目的を同じくするプレイヤーは組織を超えて協働・共創できるようにしたいですよね。株式会社もSDGsを強く意識していますし、今こそそれができるタイミングかもしれません。
 
久保:あとは、やはりファンドレイザーとして、社会課題解決につながるお金の流れを作りたいと思っています。
今「ソーシャルインパクトボンド」という社会的投資をしくみ化する準備を進めています。それができるようになると、「前例が無い」「制度・法律が無い」といった理由で支援のはざまに落ちてしまうことが防げると思っています。
【参考】「公共セクターのパラダイムシフト PFS・SIB」(一般財団法人社会変革推進財団)

山田:チャレンジフィールド北海道も、「北海道のために」を合言葉に、様々な大学や自治体、企業などが共創するプラットフォームの構築をめざしています。そこにはNPOや市民の視点ももちろん欠かせないと思っていますので、久保さんが産学融合アドバイザーとして参画してくれたことは、非常に頼もしいです。
 
久保:様々な組織が仲間になっているところがチャレンジフィールド北海道のいいところだと思っています。やはり単体のセクターで根本的な課題解決はとても難しいのです。いろいろなプレイヤーがひとつの課題に対してみんなでビジョンを描き解決していく、それを「コレクティブインパクト」と言いますが、それをチャレンジフィールド北海道と一緒に実現させたいと思っています。

―――――久保さんの野望を教えてください!

久保:ひと言で言うと、「課題解決先進地域 北海道の実現」です。誰もが様々な課題の当事者になりえるなかで、自分を含め、ひとりひとりが幸せに暮らせるようになるといいと思います。東京で活動していたころは課題に第三者的に関わることが多かったので、こんなことは言えませんでした。でも今は北海道に住んでいて、自分の活動の受益者=自分と言えます。私の仕事で私が幸せになればいいし、それが誰かの幸せにつながればうれしいですね。
 
山田:いいですね。自分の幸せのために、と言われるとがぜん信ぴょう性が増します(笑)。
 
久保:あとは、コレクティブインパクトの仕組みを北海道にしっかり作っていきたいです。
コレクティブインパクトのイメージは、「形と形がぴったり合うこと」ではなくて、「お互いが少しずつストレッチして手を伸ばし合い重なり合うこと」です。たまたま利害が一致したので協業するということではなくて、相手がどうしたいのか考え、その上で自分に何ができるか考え、同じ志を持てるところまで行ってから協業することです。だから、ストレッチするプロセスまで話し切ることが大切なんです。
 
山田:私たちと一緒に活動いただいている北海道内の産学連携コーディネーターも、高年齢化が避けられなくなっています。だからこそ若い方にもどんどん活躍していただきたいと思っています。コトを起こす意識を持ったコーディネーターがあちこちで生まれて育っていただきたい、そのために私たちが何ができるかを探ってゆくこともとても重要ですね。
 
久保:コーディネーター自身も、よくある「連携」を超えて、どんどんストレッチしていくことが必要だと思います。


後編に続きます!

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